「妄想」の影響どう評価、刑事責任能力の有無焦点 京アニ放火殺人25日判決

遺族や負傷した社員の意見陳述に耳を傾ける青葉被告(昨年12月4日の公判)

 36人が死亡、32人が重軽傷を負った2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判は25日、京都地裁(増田啓祐裁判長)で判決が言い渡される。最大の争点は刑事責任能力で、死刑を求刑した検察側に対し、弁護側は心神喪失による無罪を求めている。被告が抱えていた「妄想」の影響を、裁判所がどう評価するかが焦点だ。

 公判では事実関係に争いはなく、責任能力の有無や程度が争点となった。検察側、弁護側ともに事件当時の被告に妄想があった点は一致するが、犯行への影響で主張が対立した。

 これまでの公判で青葉被告は、京アニのコンクールに応募し落選した自身の小説について「(京アニに)アイデアを盗用された」と動機を説明。落選や盗用は「闇の人物」が指示したなどと訴えていた。

 検察側は「筋違いの恨みによる復讐(ふくしゅう)」と指摘。犯行は自己愛的で他人のせいにしやすいパーソナリティー(思考や行動の傾向)が表れたもので、「妄想の影響が大きかったとは到底言えない」とし、完全責任能力があったと強調する。

 犯行直前に十数分間逡巡(しゅんじゅん)したことを挙げ、「重大犯罪だと理解していながら、自らの意思で実行を決めた」とし、思いとどまる能力があったとした。事前の下見やガソリンの準備といった計画性にも触れた。

 一方、弁護側は、被告は精神疾患の一つである重度の妄想性障害で、責任能力はなかったと反論。10年以上にわたって圧倒的な妄想の影響下にあり、「善悪の区別や行動の制御能力を失っていた」とした。

 訂正不能の妄想が動機を形作ったとし、「闇の人物と京アニが一体となって嫌がらせしていると思った。(放火は)人生をもてあそぶ闇の人物への対抗手段、反撃だった」と述べた。
 精神鑑定した医師2人の見解も分かれた。

 検察側の依頼で起訴前に鑑定した医師は「妄想は現実的な行動にほとんど影響していない」と証言。起訴後に弁護側の請求で鑑定した別の医師は「妄想の世界で被害を受けたと感じたことが、(犯行に)影響を与えた」と分析した。

 量刑について、検察側は「日本の刑事裁判史上、突出して多い被害者数だ」とし、残虐性や結果の重大性など踏まえて死刑を求刑。弁護側は心神喪失か心神耗弱の状態だったとして、無罪か刑の減軽を求めた。建物の構造が被害を拡大させた可能性があるとした上で、憲法が残虐な刑罰を禁じている点を踏まえ、死刑を選択すべきではないと訴えた。

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