社説:春闘スタート 中小へ賃上げ波及が鍵

 物価高を乗り越えて賃金が上がる好循環につなげられるか。日本経済と国民の暮らしを支える正念場といえよう。

 2024年の春闘がスタートした。

 労働側の連合は、基本給を一律に底上げするベースアップと定期昇給分を合わせ「5%以上」の賃上げ目標を掲げている。23年の「5%程度」から一歩踏み込み、高水準の回答を迫る構えだ。

 経営側も、経団連の十倉雅和会長は、きのう開催の労使フォーラムへのメッセージで「昨年以上の熱量と決意をもって、物価上昇に負けない賃金引き上げを目指す」と意気込みを訴えた。

 さらなる賃上げの加速が重要との認識で労使は一致している。

 23年春闘は、大企業で組合要求通りの「満額回答」が相次ぐなど、経団連会員の大手で平均3.99%、連合集計で平均3.58%と、約30年ぶりの高い伸びとなった。

 だが、国際紛争や円安を背景にした歴史的な物価高には追い付かず、実質賃金は昨年11月まで20カ月連続で前年割れが続いている。暮らし向きが細り、景気を下押しする流れを転換せねばならない。

 人手不足も深刻で、優秀な人材確保や国際競争の観点から、賃金水準の引き上げに意欲的な経営側の発言も相次ぐ。

 デフレ下で企業が人件費増を抑えて利益をためた「内部留保」は550兆円超に上る。円安で輸出大企業を中心に好業績が続き、賃上げ原資は十分あろう。

 思い切った人への投資を事業強化につなげる視点が重要だ。ベアを主体に持続的、構造的な賃金上昇を軌道に乗せたい。

 焦点は、約7割の人が働く中小企業に広げられるかだ。

 人手確保も理由にした賃上げの動きの一方、昨秋の中小企業庁の調査で、原材料、人件費の増加分を全く価格転嫁できていない企業が約2割に上る。適正なコスト転嫁に応じる責任が、発注側の大企業に問われていよう。

 岸田文雄首相は、昨年を上回る賃上げを要請し、税優遇など「あらゆる手だてを尽くす」とする。価格転嫁が不十分として貨物運送、工事関連など22業種で重点的に改善を求めるという。監視・指導の実効性を高めたい。

 正社員とともに各分野を支えるパート従業員らの賃金底上げの動きも相次ぐ。幅広く非正規労働者、フリーランスを含めた働き方や待遇の改善の議論を深め、前進させる必要がある。

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