「ヤングケアラー体験」伝える美容師 “いい子”の陰に本音、笑顔の奥まで思いはせて

子どもの髪を無償でカットする企画「きらきら星サロン」を催す高橋さん(2023年9月18日、滋賀県守山市川田町・ヘアドレッサーTiCA)

 滋賀県守山市の高橋美江さん(42)は、守山市民ホール(守山市三宅町)の小ホールで2023年8月、児童支援関係者らが見守るステージに立った。職業は美容師だが、この日は役目が違う。「ヤングケアラー」として過ごした幼い日々を語ってほしいと招かれたのだ。「笑顔の奥に苦しさを秘めなくてもいい世の中を願って講演します」。落ち着いた声が紡ぐ一言、一言に、聴衆は吸い込まれた。

 耳や目に障害のある両親の元に生まれ、地元で育った。ヤングケアラーは、大人が担うような家事や家族の世話などを日常的に行う子どものこと。高橋さん自身も、道路で両親が危険な目に遭わないように注意を伝えるなど両親の見守りに徹さざるを得なかった。

 そして、「子どもは親を大切にする」という周囲の見方にも悩まされた。「あんたは親の面倒を見るために生まれてきた」と言われたことさえあった。「つらいとか、助けてほしいとか、押し殺すしかなかった」。いつしか、弱音を吐かず親を見守る“いい子”となり、本音を隠すようになったという。「何のために生まれてきたのか。自問自答していた」と語る。

 怒り、喜び、悲しみ―言葉にできない気持ちや感情を抱える孤独な心を支えたのは本だった。「本を読んでいたおかげで、いま何が起こっているのか俯瞰(ふかん)的に見られるようになった」と話す。年齢を重ね、過去の自分を冷静に見つめられるようになった。

 自らの過去を話すのは勇気が要るが、「40歳を超えて、自分の生い立ちを話すことで救える命があるかもしれないと考えた」。今では滋賀県内や近隣府県はもとより、全国の児童支援関係者らに講演を依頼される存在となった。かといって、講演する高橋さんには特別な“強さ”がある訳ではないという。「気持ちを言語化し、自分を苦しめていた原因が何かを分かっているだけだと思う」。そして、言う。「自己承認の柱がないのがコンプレックスだった。講演は自分自身の心を明確化する作業の一つ。自分で自分を承認できるようになった」

 行動力には確かなものがある。「講演しても口だけではいけない」。そう考えて今年1月、自身の美容室で誰もが来られる子ども食堂を始めた。「子ども食堂をつくれば(必要な支援の)需要が可視化され、課題解決につながる。まずは自分の手が届く場所から笑顔を増やしたい」。子どもを支援したいと考える大人を支えるのも狙いで、美容師仲間らと子どものカット体験も開いた。「子ども食堂をすることで、近所の人にも子ども食堂を身近に感じてもらえる」と期待する。

 すっかり定着した「ヤングケアラー」という言葉。高橋さんは「自分のしんどかった子ども時代に名前がついたことで、市民権を得たような、少し救われた気がした」。一方で「○○問題と取りざたされ、カテゴリー化されないと支援対象にならないってゆがみがあると思う」と違和感も口にする。

 「ヤングケアラーをどう探せばいいか」と聞かれたら、こう返事するという。「美容師をしていると全ての人が生きづらさを抱えていると感じる。子どもは親を幸せにし、家族のバランスを取ろうと一生懸命生きている。全ての子どもがヤングケアラーと考えたらどうですか」

子ども食堂「まほうの食堂」でカレーをほおばる子どもたちを笑顔で見守る高橋さん(2023年3月19日)

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