社説:予備費積み増し 震災復旧は補正予算で

 能登半島地震に伴い、政府は2024年度予算案の一般予備費を5千億円積み増し、1兆円に倍増すると決めた。予算案はきょう召集の通常国会で審議される。

 被災地は甚大な痛手を負っており、復旧や復興への手厚い支援や早急な予算措置に異存はない。

 ただ、予備費は国会の議決を経ずに内閣の判断で使い道を決められ、好き勝手に使う「便利な財布」になりかねない。支援は待ったなしだ。23年度内に補正予算案を組んで対応すべきであろう。

 政府は被災地支援で4月以降も財政需要が生じると見込み、23年度の予備費の残り4600億円に加え、増額により1兆円規模の予備費を確保するとした。財源は国の借金となる新規国債発行額を5千億円増やして賄うという。

 異例の予備費積み増しについて岸田文雄首相は「最もスピード感があり、適切だ」と強調する。

 だが、予備費は憲法87条で「予見し難い予算の不足に充てる」と規定されている。既に発生し、規模も大きい災害を対象とするのは筋違いではないか。

 日本は多くの自然災害を経験したが、発災後に急きょ、災害対策費などの名目で補正予算が組まれてきた。同じ1月に起きた1995年の阪神大震災時は、道路や港湾などの災害復旧事業、被災者への弔慰金など復興対策費を盛り込んだ1兆223億円の補正予算案が1カ月余りで編成され、2月末に全会一致で可決された。

 2011年の東日本大震災の際も、2カ月足らずで最初の補正予算を成立させ、復旧を急いだ。

 スピード感を重視するなら、一日も早く補正予算を成立させ、支出を裏付けるべきだ。被災地支援に与野党とも協力を惜しまないだろう。それが国会の役割である。

 政府はきのう、被災者の生活支援やインフラ復旧などに加え、観光復興支援「北陸応援割」といった政策パッケージをまとめた。26日にも予備費から1500億円程度を追加支出するという。被災実態に沿った喫緊の支援策なのか、国会でのチェックは期待できない。

 予備費は、事前に使途を定めず例年5千億円を計上するのが通常だったが、新型コロナウイルス禍をきっかけに20年度から急拡大した。使途も感染症対策から経済緊急対策、ウクライナ情勢対応、賃上げ対策にまで広がり、一時は10兆円規模まで膨らんだ。

 予備費の乱用は財政規律の緩みを招き、財政民主主義の形骸化にもつながる。看過できない。

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