洗濯、入浴に湧き水どうぞ 珠洲・小谷内さんが住民に提供

湧き水を使って洗濯する徳力さん=珠洲市正院町平床

 断水が続く珠洲市で、正院町平床の小谷内毅さん(63)が裏山から湧く水を住民に提供している。自宅前には洗濯機も並べ、家の薪(まき)風呂とともに開放。小谷内さんは「昔から地域の人の喉を潤してきた水。みんなの財産だ」と助け合って困難に立ち向かっている。

 小谷内さん宅の前には、知人や地区住民から提供された農業用タンクや洗濯機4台が並ぶ。タンクの水をくんで持ち帰ってもよく、洗濯や入浴と合わせて一日約30人が利用している。

  ●「とても助かる」

 上戸町北方から訪れた徳力美鈴さん(36)は「洗う物が多いのでとても助かる」と笑顔。正院町平床の新谷昇さん(73)と清美さん(63)夫婦は自宅の片付けの帰り道に立ち寄り、湯に漬かった。新谷さんは「寒い日が続くし、シャワーよりも風呂。本当にありがたい」と満足げだった。

 小谷内さんに水源を尋ねると、家の裏に案内された。山の斜面からポタポタと絶え間なく落ちる水滴が直径約1メートル、深さ約1.2メートルの穴にたまっている。

 豊富な水量を支えるのが特産の七輪にも使われる珪(けい)藻土(そうど)の土壌だ。保水力が高く、日中にくんでも一晩でまた穴を満たすという。水質検査を受けていないため口にはできないが、能登の里山から贈られ、被災者の暮らしをつなぐ命の水だ。湯船で柔和な笑みを浮かべる住民を見ていると、能登の人たちの互助精神を感じ、心が温まった。(加賀支社・高田和彦)

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