自宅全壊も「前向くしか」 氷見のバス運転手、気丈に職場復帰

バス運転手の仕事に復帰した寺尾さん=氷見市柳田の平和交通

  ●氷見・平和交通の寺尾さん 母は無事救出、感謝

 「起きたことは戻せない。前を向くしかない」。氷見市柳田のバス・タクシー会社「平和交通」の運転手寺尾直樹さん(62)は、能登半島地震で、七尾市の能登島にある自宅が全壊した。それでも生きるために働くしかないと、今月中旬に職場復帰した。つぶれた家から母親が無事に助け出された幸運や、周囲の人の優しさに感謝しながらハンドルを握る日々だ。

 地震発生時はツアーバスの乗務から戻り会社にいた。給油をしていたところ「バスがひっくり返るかと思った」というほどの揺れに襲われた。自宅の母十四子さん(84)に電話がつながらない。急ぎ七尾に戻ったが、能登島大橋は通行止めになっていた。

 夜に島に住む親戚と連絡が取れ、十四子さんの無事がわかった。家はつぶれたが、母が生きていてくれただけで十分だった。

 十四子さんは家の下敷きになったが、戸の間にはさまっているところを近所の人たちに助けられた。擦り傷程度ですみ、本当に運が良かったと振り返る。

 翌日、橋が通れるようになり、避難所にいた十四子さんと再会。自宅がある野崎町に向かった。隆起や破損でめちゃくちゃになった道路を走らせると家が7、8軒つぶれ、その中に自分の家もあった。

 愛知県に住む弟に母を引き取ってもらった後は車中泊や親戚、同僚の家に世話になり生活。七尾市が用意した住宅に12日ごろ入れた。

 平和交通では地震に関する保険調査員の送迎依頼が舞い込んでいる。寺尾さんは復帰後、自宅がある野崎町を案内したが、変わり果てた故郷の姿を淡々と眺めるしかなかった。

 つぶれた家の中には先祖の位牌や写真があり、持ち出したいと考えている。地震後、平和交通の山田真功社長(62)をはじめ同僚や親戚、友人らから励ましの言葉をかけられた。七尾市では救援活動の自衛隊員らとも話し、助けられていることを実感した。

 今週は泊りでの観光バスの仕事が入った。「今の家では入れない風呂にゆっくりつかれるのがうれしい」と笑顔をみせた。

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