田の神1年間滞在? あえのこと儀礼ピンチ

神様の依代となる米俵を前にする森川さん。地震で自宅の内壁が崩れた=25日午前、穴水町藤巻

  ●中止や延期、簡略化も

 能登半島地震の影響によって、国重要無形民俗文化財でユネスコ無形文化遺産の「あえのこと」で2月9日に営まれる「田の神」を田んぼに送り出す儀礼を中止や延期にする地域が出てきた。「神様には今年1年、家におってもらっていい」。儀礼を営む奥能登の住民は家屋が壊れ、断水のため必要な料理や風呂を用意できない。奥能登を襲った大きな揺れは伝統文化にも暗い影を落としている。

 穴水町で唯一、あえのことを受け継ぐ森川祐征さん(84)方=藤巻=は、家の床の間の壁が崩れたり、座敷の床がへこんだりしたため、中止もやむなしとしている。

 森川さんは「9日までに片付けが間に合わん。送り出すなら家をしっかり直さんと」と語り、神様の依代(よりしろ)となる米俵を見つめた。

 能登町の柳田植物公園では昨年12月、神様を向かい入れた際、コロナ禍以降、初めて見学者を受け入れた。だが、儀礼を行う古民家「合鹿庵(ごうろくあん)」の壁が壊れたことから、9日の儀礼を取りやめる。

 公園の指定管理者「能登みらい創造ネットワーク」(能登町)の竹内剛代表は「修復しなければ何も行えない」と語った。

 延期を模索するところもある。輪島市白米町の実家で神様を迎え入れている川口喜仙さん(59)=金沢市=は、掃除や片付けのため、儀礼を1カ月延期し、3月9日に行うことを考えている。川口さんは「料理は金沢から持っていけるが、断水が続けば神様にお風呂に入ってもらえん。それまでは神様に留守番をしてもらうことになりそうや」と話した。

 簡略化を検討している地域では、料理はおにぎりや漬物といった簡単に用意できる献立とし、参加人数を絞ることを検討している。山口みどりの里保存会(能登町)会長の花畑壽一さん(83)は「被害があまりにもひどいが、田の神様を田んぼへ送り出さないわけにはいかんので、数人で簡単に行いたい」と話した。

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