少しでも被災地の力に…甲子園決めた日本航空石川主将が見せた涙 福井県出身の寳田一慧選手

被災地に元気を届けると意気込む寳田一慧主将=1月26日、山梨県甲斐市の日本航空高山梨キャンパス

 避難先の山梨に春の便りが届いた。能登半島地震で甚大な被害を受けた石川県輪島市の日本航空高石川が1月26日、選抜高校野球大会の出場校に選ばれた。同校野球部主将で福井県越前市武生一中出身の寳田一慧(ほうだ・いっけい)選手は「まだ合流できていない仲間とも一つになり、全力プレーで被災地に元気を伝えたい」。涙を流し、大舞台での活躍を誓った。

 部員32人は日本航空高山梨キャンパス(山梨県甲斐市)で出場校発表の映像を見守った。日本航空石川の名前が読み上げられると、画面を見つめていた寳田主将は上を向いて目を潤ませた。「輪島での2年間や地震のつらさを思い出した」。中継でつながったヘルメット姿の能登空港キャンパス関係者から「能登はこっちが守るから思う存分に戦って」と声を掛けられると感情を抑えきれず、涙をぬぐった。

 福井県の鯖江ボーイズ出身の寳田主将は、チームの先輩に憧れて、後を追うように日本航空石川の門をたたいた。持ち前のリーダーシップで1年時から同級生を引っ張った。地震発生時は越前市に帰省中。能登地方が震源地と知ると動揺した。翌日まで連絡が取れない部員もおり、不安な時間を過ごしたという。

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 主力組が山梨県に拠点を移し、全体練習を始めたのは19日。寳田主将は15日に福井から移動し、約3週間ぶりに部員と再会した。仲間の中には祖母を背負って高台へ逃げた選手もおり、「どう言葉をかけていいか分からなかった」と話す。悩んだ末に、いつも通り日常会話を楽しむことにした。「地震の前と同じように。環境に慣れるのが一番」と思ったからだ。

 山梨では午前にオンライン授業を受け、午後は練習にあてる。教室に仮設ベットを設けて集団で暮らし、自身も苦しい経験をしている。それでも「いろいろな人が助けてくれる。能登と変わりなく野球に打ち込める」と、募るのは感謝の思いばかりだ。

 「被災地の人は本当に苦しい思いをしているし、少しでも力になりたい。ベンチ前での声出しや円陣。全力の野球で見ている人にメッセージを伝える」。現地の惨状に心を痛めつつも、第二の故郷へ元気を届ける気持ちでいっぱいだ。

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