社説:福祉避難所 要配慮者の支援強化が急務

 障害者や高齢者、妊婦ら配慮が必要な人たちを守る支援強化が急がれる。

 能登半島地震の被災地で、要配慮者を災害時に受け入れる「福祉避難所」の開設が進んでいない。

 共同通信の調べでは、地震発生から約3週間たった段階で、開設できたのは想定の2割にとどまる。

 職員が被災して人手を確保できないとの理由や、施設が使えない、断水で衛生状態が悪いといった事情があるようだ。このため、一般避難所で体調が悪化したり、やむを得ず被災した家に残ったりする人もいる。

 災害関連死につながる恐れがある。要配慮者が必要とする医療やケアの確保に、いっそう手を尽くさねばならない。

 福祉避難所は、自治体が事前に福祉施設などを指定するか、施設側と協定を結んで災害時に開設する。全国約2万5千カ所(2022年)が位置づけられている。京都市は協定で301カ所(23年)、大津市は指定34カ所、協定28カ所としている。

 段差がないなどバリアフリーが整備され、支援スタッフが常駐する。認知症で徘徊(はいかい)するなど一般避難者との生活が難しい人たちのよりどころといえよう。

 ただ、支え手の介護職は人手が足りず、とりわけ過疎高齢化が進む地方は余裕がない。今回、政府は全国の福祉施設から介護職員らを募集し、被災した施設に派遣を始めた。継続的な支援が不可欠だ。

 府県を超えて応援に入るなど広域連携の体制を平時から整える必要がある。福祉の専門職による「災害派遣福祉チーム」(DWAT)も各自治体で強化したい。介護士の経験者を登録し、非常時に派遣する仕組みも考えてはどうか。

 住み慣れた地を離れる不安から2次避難を躊躇(ちゅうちょ)する人や、環境の変化にうまく対応できない人もいる。入所者だけでなく、普段担当する職員も一緒に移れれば安心だろう。

 福祉避難所を巡っては、過去の教訓が生かされていない。

 不備が問題となったのは、1995年の阪神大震災だ。広範囲に被害が及んだ2011年の東日本大震災では施設も支援も不足し、16年の熊本地震でも事前に協定を結んだ施設のうち、開設は半数程度だった。

 福祉機能にいかに実効性をもたせるか。一般の避難所でも福祉関連用品の備蓄を充実させ、できうる範囲でバリアフリー化を図るべきではないか。部屋の確保や仕切りを設けて、要配慮者用のスペースができないかも工夫してほしい。

 国は自治体が指定した施設の公表を指針で促すが、一般の避難者が福祉避難所に殺到するのを懸念し、非公表とする自治体もある。存在すら知らない人はまだ多い。地域防災の重要な拠点にしていかねばならない。

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