“母の遺産”ラーメン450円守る 70歳の「えっちゃん」が営む“同い年”の町中華 川口の「風来飯店」

これぞ王道のメニュー。ラーメン、ギョーザ、半ライス

 「キューポラがたくさんあった。鉄を溶かすのに使うコークスの山があちこちにあった。でも、芝川の土手にはタンポポやいろんな花が咲いていて、きれいだった。路地裏で見上げると青空があった。今はマンションが建って青空が見えないけれど…」

 埼玉県川口市末広1丁目、国道122号沿いの「風来飯店」。一人で店を守る「えっちゃん」こと添田悦子さん(70)の幼いころの記憶は鮮明だ。ここで生まれ育った。「芝川の眺めも好きだった。あのころ遊んだ友達は今も元気にしていると思う」

 70年前に父中村智雄さんと母百合子さんがこの店を始めた。しかし、父は48歳で他界、その後一人で頑張り、13年ほど前から悦子さんも手伝い、その母も他界し、10年ほど前から悦子さんが一人になった。

 母の時代からラーメンは値上げをしないで450円、ギョーザも450円。母の遺産だと思い、悦子さんも守っている。コロナ禍で閉店した同業者もいた。「でも、うちは生き残った。やめようと思わなかった。あのコロナ禍でも、お客さんとの縁が切れなかった。川口のここにいたから生き残れたのだと思う」

 「ここは安い。ほっとする店」と常連客の岡田正雄さん(78)。悦子さんは「常連さんは宝物。最近は、若い人も来てくれる。誰でも入ってこれる気軽な店、がうちの取りえです」

 数十年前に別府大学教授になって大分に去った常連客、漫画家として活躍する田代しんたろうさん(75)の年賀状は「みんな元気か」と客仲間の安否を聞いてくる。

【主な人気メニュー】ラーメン450円、ギョーザ450円、みそラーメン600円、ザルラーメン550円など50種類。

【メモ】 風来飯店 川口市末広1の1の10(電話048.223.2731)。営業時間午前11時~午後2時、午後5時~同10時、定休日は水曜日。埼玉高速鉄道川口元郷駅から徒歩5分。

厨房(ちゅうぼう)の店主、添田悦子さん=埼玉県川口市末広の「風来飯店」

© 株式会社埼玉新聞社