絢爛豪華、ヴェネツィアの仮面カーニバルが大復活

世界三大カーニバルの1つ、イタリア・ヴェネツィアの仮面カーニバルが1 月27日、大復活を遂げた。主会場のサンマルコ広場にマスケラと呼ばれる仮面を付け、着飾った紳士淑女が続々と集まって衣装の美しさと奇抜さを競い合う。トルコのスルタン(皇帝)の礼服やナポレオンの軍服に身を固めた男性、トランプの絵柄から飛び出てきたような衣装の男性も目にする。鼻先に大きなくちばしを付けた仮面は、中世にペストが大流行した時代に患者から距離を置くために実際に医者が付けていたもの。海洋国家ヴェネツィアの苦難の歴史を彷彿とさせる。

女性は、フランス・ブルボン王朝のマリーアントワネット王妃の晴れ着を始め、欧州各国の中世宮廷人の社交服から、超モダンなデザインに艶やかな色彩をマッチングさせた華麗な衣装まで、どの仮面も衣装もサプライズと深いこだわりがある。仮面の主の豪華衣装は、多くは地元の服飾店に依頼して仕立て、はるばる持ち運んだものだという。カーニバルに向ける仮面の主たちの力の入れようには、カーニバル最終日の衣装コンテストで優勝を待ち望む強い意志が漲っている。

フィナーレが近づくにつれ、サンマルコ広場、ドゥカーレ宮殿前、スキアヴォーニ海岸通り、老舗ホテル「ダニエリ」前など主だった広場や大通りに着飾った紳士淑女が勢ぞろいし、その仮面衣装見たさに観光客が押し掛けてごった返す。さながらヴェネツィア中に状況劇場が出現したかのように熱狂する。

18 世紀ヴェネツィア貴族の晴れ着を再現

サンマルコ広場で出会った日本人のご夫妻に「どうですか、今年の仮面カーニバルは?」と尋ねると、「私ども、今年、来年相次いで還暦を迎えるものですから、その記念にと2人でやってきました。昼間はヴェネツィア観光とショッピング、夕方からは貸衣裳屋さんで仮面と衣装を借りてホテル・ダニエリの仮面舞踏会に参加します」とのこと。「お二人の健やかな人生後半への門出を祝します」と返すと、大きな笑顔をされて人垣の中に消えていった。

太陽を象徴するモダン・デザインの仮装

豪華ドレスの仮装を楽しみカーニバルに参加するツーリスト個性的なマスケラと豪華な衣装の淑女がポーズをとって道行く人々を誘う

フランス王侯貴族の仮装にマスケラを付けた紳士たち## 起源は12世紀、ヴェネツィア全市民挙げての戦勝祝賀会に始まる

ヴェネツィアの仮面カーニバルは、1162年頃にヴェネツィア共和国が宿敵アクイレイアに勝利した記念の祝祭行事に始まったと言われる。祝祭日には、階級社会の戒律に触れないように、市民は仮装して仮面を付ければ、誰でも紳士淑女になって匿名の社交を楽しめた。ルネッサンス期には、イタリアの内外からも賓客を迎えるほど大規模な祝祭行事であった。ヴェネツィア共和国の衰退とともに仮面カーニバルも勢いが衰え、をなくし、長らく入り込み観光客が落ち込んでいた2月のヴェネツィアに活気を取り戻そうと、1979年にイタリア政府の肝入りで始められたのが、現代のヴェネツィアの仮面カーニバル。戦後の好景気に支えられて発展し、開催期間の2週間に延べ約300万人もの参加者が集まる世界最大級のカーニバルに至った。

仮装をしてもしなくても、全員参加の仮面カーニバル

オーバー・ツーリズムするヴェネツィア観光

昨今、オーバー・ツーリズムが顕著になった欧州の国際観光都市の中で、ヴェネツィアはその筆頭格に上げられる。オーバー・ツーリズム対策として、ヴェネツィアでは、来島する観光客に一定の入島税が時期に応じて課され始めた。25名以上の団体ツアーの入島禁止措置も近く施行されるという。一般観光客が困るのは、ヴェネツィア本島内の宿泊施設が既に限界に来ていることだ。

仮面カーニバルの時期は水の都ヴェネツィアが最も賑わう

特にヴェネツィアが混み合う祝祭行事の期間中は、多くの観光客がヴェネツィア本駅の1つ手前ないし2つ手前の鉄道駅周辺の宿泊所を確保している。ヴェネツィア空港に隣接する空港ホテルの利用も1案だ。年々加熱する仮面カーニバルは、コロナ禍に襲われたこの数年、数々の制約を余儀なくされてきた。満を持して迎えた2024年、ヴェネツィアの仮面カーニバルは、往時の繁栄にタイムスリップする大復活を遂げた。さあ、ご覧あれ!水の都ヴェネツィアの仮面カーニバル。(2016年現地取材及び2024年現地情報に拠る)

寄稿者 山田恒一郎(やまだ・こういちろう)旅行作家

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