遂に日本語化された「CITIZEN SLEEPER」の魅力を紹介――振られたダイスでどう生きるかを問うSFアドベンチャー

Fellow Travellerが配信している「CITIZEN SLEEPER」のプレイレポートをお届けする。

2022年にPC/Xbox Series X|S/Xbox Oneでリリースされた本作は、テーブルトークRPGを彷彿とさせるシステムが特徴のSFアドベンチャー。星間資本主義社会の辺境で生き抜く人々が暮らす宇宙ステーション“アーリンの瞳”を舞台とした奥深いストーリーが好評を博し、The Game Awardsにもノミネートされた。

筆者を含むSF好きにとっては、設定を聞くだけでも刺さるタイトル……なのだが、残念ながら長らく英語サポートのみとなっていた。ただでさえ複雑で専門用語の多いジャンルということもあり、興味はあるが触れられなかった人も多いのではないだろうか。

そんな本作が、本日2月1日に遂に日本語化され、PS5/PS4/Nintendo Switchでリリース。本稿は2月2日に日本語化予定のSteam版をもとにしたインプレッション記事となる。

なお、主体となるストーリーの魅力を損なうことのないよう、核心的なネタバレは控えるが、全く情報を入れたくないという人は注意して欲しい。確実に言えるのは、少しでも興味があれば、プレイして損はない作品であるということだ。

主人公は、デジタル化された人間の精神を有する疑似生命体“スリーパー”。彼らを道具のように扱い、回収を目論む企業に追われ、アーリンの瞳と呼ばれる宇宙ステーションへ辿り着くところから物語は始まる。危険な場所でもあるアーリンの瞳で生き残るのが、本作における大きな目標の一つだ。

ゲーム開始時には、キャラクターのクラスを選択可能。クラスは“機械工”“操縦士”“採掘人”の3つで、さまざまな有利効果を持つ能力“パーク”や、“スキル”の初期値が異なる。

スキルは技術、電脳、忍耐、直感、交流の5カテゴリに分かれており、後述するダイスの目に補正がかかるほか、強化することで新たなパークも取得可能。クラス固有のパークは無く、自由に強化できるため、特に初見時は見た目で決めてしまってもOKだ。

ゲームは主に、“サイクル”と呼ばれる1日を過ごすことで進行する。ステーションの探索に加え、“アクションダイス”というサイコロを使ってアクションを実行可能だ。そうしてダイスを使っていき、最後に拠点へ戻ってサイクル終えることで、次のサイクルへと進行する。

サイクルを進めていく中では、時に“ドライヴ”と呼ばれる使命が発生。これをこなしていくと、自分自身や世界の謎が明かされ、物語が進んでいく……というのが基本的な流れだ。なお、決められたルートは無いので、どれから進めるかはプレイヤー次第。進めないという選択もできる。

ドライヴは画面左上にリスト化され、追跡するものを選べる。

注意すべきは、“状態ゲージ”と“活力ゲージ”だ。スリーパーが持つ人工的な体は、サイクルを進めると徐々に劣化していく。状態ゲージはそんな体の状態を表し、1サイクルで1マス減少。ゼロになると“故障”し、スキル1つが-1に固定されてしまう。

一方で活力ゲージは、スリーパーの空腹状態を示すものだ。こちらは1サイクルで2マスで減少し、ゼロになると“空腹”に。空腹では活力の代わりに状態ゲージが減少する上、各サイクルの状態ゲージの減りも倍になってしまう。状態を回復する手段や食事できる場所を探し、2つのゲージをうまく管理するのも重要だ。

サイクルの開始時には、スリーパーの状態に応じて最大5つのアクションダイスが振られる。状態ゲージが減っているほど、振られるダイスの数=アクションを実行できる回数が減ってしまうので、特に状態の管理は優先すべき事項と言えるだろう。

(画面上部から)状態ゲージ、アクションダイス、活力ゲージ。

探索をしていると、さまざまな場所でアクションを実行可能。実行の際は、任意のアクションダイスを選んで使用する。アクションの結果は“良い”“普通”“悪い”の3種で、ダイスの目が多いほど良い結果になりやすい。また、アクションには3種のリスク“安全”“注意”“危険”や、実行に必要なスキルが存在。単発で完了するもの、反復できるものといったタイプもある。

アクションを実行すると、結果に応じてクロックというものが埋まっていく。クロックには+と-があり、+が埋まると良いこと、-が埋まると悪いことが起こるという仕組みだ。

……基本的な部分をざっくりと紹介したが、なかなか複雑なシステムなので、下の画像を例に一度整理しよう。

ここでは、-のクロック“借金の取り立て”と+のクロック“事業の立て直し”があり(画像中央下部)、-の方はサイクル経過、+の方は左右のアクションによって進んでいく。この場合、+のクロックは左右どちらのアクションで進めてもOK。借金の取り立てが来るまでに、事業の立て直しを終わらせるイメージだ。

各アクションの右上にある数値は、現在のスキル値に応じた補正値。-1の方にダイスを入れると、目が一つ減った状態での結果判定となるので、悪い結果が起きやすい。

となると、左のアクション“船体の解体”一択かと思うかもしれないが、こちらはリスクが“注意”となっている。リスクが高いアクションは、悪い結果が起きた場合にクリオ(お金)や活力ゲージ、状態ゲージなどが減ってしまうので気を付けよう。2つのゲージ状況を加味しつつ、アクションダイスをうまく配分し、効率的に+のクロックを進めていくのが基本的なセオリーだ。

アクションによっては、クリオやアイテムなどが手に入ることも。

ちなみに、事業の取り立てはチュートリアルの一部だが、クロックはドライヴに関連するものも多い。ドライヴをクリアすると強化ポイントが手に入り、スキルを強化できるので、気になったドライヴは積極的に挑戦するのが良いだろう。

物語を進めると、リアルのマップとネットワークのマップを切り替えることが可能に。ゲートを遠隔ハッキングして行ける場所を増やすなど、いかにもサイバーパンク的なアクションも可能となる。

ハッキングの際には、電脳のスキルが活躍することだろう。

システム面で注目すべきは、ダイスの目という運要素がありつつも、そのダイスをいかに利用し、最大化を図るかはプレイヤーの選択に委ねられているという点だ。企業に飼われ、道具として扱われてきた疑似生命体・スリーパー。彼らが自分の意志や能力をもとに、限られたダイスで運命を切り拓いていく様は、“人生”そのものの醍醐味とも言い換えられ、これは本作全体のテーマとも繋がってくる。

ゲームを進める過程では、システム技師や廃物回収人、医者、賞金稼ぎ、喋る自販機に至るまで、癖のあるさまざまな住民たちと交流することができる。会話には選択肢もあり、彼らと協力するも対立するもプレイヤー次第。時には喧噪を離れてキノコを栽培したり、ネコに餌をあげる生活を送るのも良いだろう。

小説風の文体も没入感を高めてくれる。多少の誤字はあるものの、翻訳の質は申し分ない。

筆者の場合は、とある造船所で出会ったレムとミナという親子の健気さや思想に共感。その親子と関わるドライヴを中心に進め、ある結末へと辿り着いた。成功したこともあれば大失敗に終わったこともあり、一般的に良いエンディングだったとは言えないかもしれないが、全ては自らが歩んできた道のり。納得感とともに、奇妙な達成感すらあったのが印象的だった。

もちろん、選ばなかったドライヴも気にはなるので、後からいくつか確認した。いずれも素晴らしかったが、「CITIZEN SLEEPER」という作品の真髄は、選ばなかったという選択も含めて、初回のプレイに集約されてるような気がしてならない。

ステーションにたどり着き、右も左も分からない状況から、どのキャラクターと過ごし、どんな知識を獲得し、どこに時間を費やしたか。そして、どの結末に行き着いたか。そんな一繋ぎの経験と結果が、まるごと本作の魅力と言えるだろう。

グッドエンディングと取れるものもあったが、やはり私はあの親子と過ごした時間を忘れられそうにない。

最後に余談を一つ。あくまで筆者の場合だが、物語を読み解くにあたって、専門用語の意味などをメモにまとめ、用語集のようなものを自ら作成した(結果、だいたい本稿の2倍近くの文量になってしまったのは内緒だ)。

メモ無しだと理解できないほど複雑な訳でもないが、点と点が線で繋がる感覚を何度か味わえたので、興味のある人はぜひ試してみて欲しい。

時には、キャラクターに直接質問できるタイミングも。世界についての見識を深めるチャンスだ。

日本語化と対応ハード追加によって、さらに多くの人々へ届くようになった本作。続編の「Citizen Sleeper 2: Starward Vector」も発表されているが、こちらも日本語に対応してくれることを切に願う。

もしくは、なけなしの語学スキルを強化して、英語版に挑むのもアリかもしれない……そう思わせてくれるほど、本作での体験は良質なものだった。

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