氷見の老舗かまぼこ店廃業 「與市郎」店舗損壊で断念

昨年末、最後に作ったかまぼこを眺める中村さん

  ●絵付け体験で観光にも貢献、83歳社長「まだやりたかった」

 能登半島地震で甚大な被害を受けた氷見市北大町にある老舗かまぼこ店「與市郎(よいちろう)かまぼこ店」を営む中村一成社長(83)が廃業を決めた。創業約90年の店は市民に愛され、かまぼこの絵付け体験で氷見の観光の一翼を担っていた。店舗は大きく損壊し、中村さんは再建が難しいと判断。唐突に幕を下ろすことになり「あと5、6年はやりたかったんに」とやり場のない悲しさを募らせている。

 「全部パーになってしもうた。こんなひどいことになって、どうして直される」。地面のコンクリートが割れ、壁が剝がれ落ちた作業場で中村さんは途方に暮れていた。

 店は住居を兼ねており、元日は、家族6人が集まっていた。立っていられないほどの揺れが収まり、店内を確認すると作業場が一変。表通りに面するガラスは割れ、地面の至る所が沈下して凸凹になり、地割れが走っていた。

  ●おおみそかも製造

 罹(り)災証明の判定結果は「半壊」。年齢的にもこれから立て直す気力はなく、断腸の思いで決断した。かまぼこ作りに使うボイラーは半年前に購入したばかり。年末に作った赤巻きや昆布巻きは売ることもできず賞味期限を過ぎてしまい「おおみそかまで仕事しとったんに」と嘆く。

 中村さんによると、店は、先代の父が1930年代に創業し、中村さんも中学卒業後から働き始めた。「車買うてやるから継いでくれってだまされたんや」と笑うが、いつしか仕事が生きがいになっていた。この道68年、まだまだ現役のつもりだった。

 長年、氷見の観光にも一役買ってきた。色とりどりのすり身でかまぼこに図柄を描く「絵付け体験」は観光ツアーに組み込まれ、修学旅行生や訪日客ら数多くの観光客が楽しみ、昨年は年間2千人に指導した。

 見せ場のお手本では、ヘラや絞りを使い、熟練の手さばきで鯛を描いて見せ、毎回大きな拍手が沸いた。「あの瞬間がうれしくて、気持ちよかった。仕事の励みになっていた」と振り返る。

 地震で予想外の廃業に市民や常連客、観光関係者からも「残念や」「おいしかったのにね」と惜しむ声が届くという。中村さんは「みんなにかわいがってもろうて、頑張ってこられた」としみじみと感謝を口にした。

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