92歳「また一から出直しや」 市道に倒壊の家屋、撤去開始 輪島・河井町

地震で倒壊し、市道にはみ出した自宅の撤去作業を見守る九尾さん=31日午後1時半、輪島市河井町

  ●輪島 家主・九尾さん 思い出の品より工事優先 

 建物被害が相次いだ輪島市で31日、市道にはみ出した倒壊家屋の撤去作業が河井町から始まった。家主の九尾(くお)照栄さん(92)は「思い出の品も取り出せていないが、工事が遅れてしまう」と解体を承諾した。作業を見守りながら「また一から出直しや」とつぶやいた。

 親の代からしょうゆの仕入れ販売を手掛ける九尾さんは、3階建ての木造住宅に妻と美容師の長男夫婦の4人で暮らしていた。地震があった1日は長女夫婦も金沢から帰省。2階で年賀状を書こうとしていた。

 九尾さんによると、家は道路側に30度以上傾いたがどうにか倒壊は免れ、家族は全員無事だった。大津波警報を受けて避難し、翌日に「思い出の品だけでも運び出そう」と自宅に向かうとすでに倒壊していたという。「仏壇は壊れたが、ご先祖さまが守ってくれた」と話した。

 自宅からは、次男の浩司さん(63)=同町=が数珠と洋服を取り出したが、それで精いっぱい。位牌は見つからなかった。

 マイホームは39年前に長男夫婦が美容室をする際に建てた。孫が生まれた年だった。九尾さんは「正月に親族が集まってご飯を食べるのが楽しみだった。残念だが、幸いにも向かいや隣の家に迷惑を掛けなかったのが救い」と、重機で壊されていく自宅を見詰めた。

 今回の撤去作業は道路や上下水道の復旧を妨げる部分が対象。家屋すべてではなく、道路に出た部分のがれきを撤去する。初日は4トン車3台分を仮置き場に運んだ。

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