“試合巧者”になれない日本代表、頂点を目指す上で必要なクオリティと判断力【日本代表コラム】

圧巻のゴールを奪いきった上田綺世[写真:Getty Images]

1月31日、日本代表はアジアカップ2023・ラウンド16でバーレーン代表と対戦し1-3で勝利。9大会連続でベスト8に進出した。
【動画】これぞ上田綺世! GKの股間を抜く強烈シュート

インドネシア代表戦で本来の形を取り戻した日本代表。森保一監督は中6日空いての試合に10人を継続して先発させ、継続性を図った。その結果は、1-3での勝利。選手たちは起用に応えて準々決勝に勝ち進んだ。

森保監督は試合後、「選手たちが良い準備をしてくれた」とコメント。「アグレッシブに気持ちを全面的に出してくれて、入りよくプレーしてくれたことは良かったです」と、試合の立ち上がりから良いプレーを見せたと振り返った。

センターバックの板倉滉(ボルシアMG)のみがインドネシア戦から変更した点。そのインドネシア戦では、ベトナム代表戦、イラク代表戦で失われていた、プレス強度や切り換えのスピードなどが取り戻せていた。日本代表が強みとする部分をしっかりと出したメンバーは、このバーレーン戦でも特徴を出していく。

右サイドバックで連続先発起用となった毎熊晟矢(セレッソ大阪)は、同サイドで連続先発となった堂安律(フライブルク)と良い連係を見せて持ち味である攻撃参加とポジショニングの良さを発揮していた。先制点はまさにその毎熊の良さが出たもの。「人との距離感というのは常に意識している」と試合後に語っていた毎熊は、ゴールにつながったミドルシュートについて「パスが来る前に決めました」と、スペースが見えた時点で打つことを決めていたという。元々前線でプレーしていた選手であり、意識を持っているからこその判断だったと言える。

また、守備では復帰した板倉、そして継続して先発した冨安健洋(アーセナル)はこの試合もしっかりと後ろからコントロール。板倉とのコンビで194cmのFWアブドゥラ・ユスフ・ヘラルを完封。ただ、「お互いにベストではなかったと思います」と冨安は語り、2人で試合中に要求し合い、擦り合わせながらやっていったとのこと。「より良くしていくべきだし、していかないといけないと思います」と、改善していく必要があるとした。対して板倉は「僕も隣に彼がいると非常に安心してプレーできます」と語り、信頼関係を築いていることが垣間見える。

攻守にわたり選手の距離感、そして意思の疎通が取れている戦い方だったが、課題は残る。冨安は「2点目入った後に、ちょっと落ち着いちゃったというか、3点目、4点目を奪いに行って試合を殺さないといけないのにできずに、逆に相手に流れを渡して良くない時間帯でやっぱり失点してしまった」とコメント。「試合巧者になるためのレッスンだと思う」と語り、ポジティブに捉えながらも、まだまだ足りていないとした。

冨安の指摘通り、後半選手を入れ替えていった中で、1-3とした後もゴールを奪うチャンスはいくつもあった。特に気になったのはFW浅野拓磨(ボーフム)が逸した2つのプレー。1つは、この試合が復帰戦となった三笘薫(ブライトン&ホーヴ・アルビオン)が長距離をドリブルで持ち上がり、フリーの浅野へラストパス。しかし、ボックス内でフリーでパスを受けた浅野は、トラップに失敗しシュートに行けない。さらに後半アディショナルタイムには中山雄太(ハダースフィールド・タウン)が絶妙にタイミングを見計らってロングスルーパス。これに反応した浅野は完全に抜け出すが、GKとの一対一ではしっかりと止められてしまった。

この先、強豪揃いの中で勝ち上がっていく上で、作った決定機を不意にするのは命取り。この2つのプレーが仮に1-2の状況で起こっていれば、バーレーンは息を吹き返して同点に追いついた可能性もある。浅野はイラク戦でもカウンターで抜け出した際に角度のないところから強引にシュート。伊東純也(スタッド・ランス)が中央にいただけに、クロスにしていればゴールになったはず。結局試合には敗れていたが、流れを変える可能性が十分にあったシーンだ。

クオリティの部分を高めていかなければ、完全にマークされている状況で優勝を果たすことは不可能。ましてや、ワールドカップ優勝を掲げている今のチームにおいては、やはり精度を上げていくことが重要になる。

それは守備でも言えることであり、4試合連続の失点となったが、オウンゴールは仕方のないプレーだったと言える。ただ、GK鈴木彩艶(シント=トロイデン)は、そのCKの前のプレーで、ハイボールをパンチング。「空中に上がったボールは凄く回転がかかっていたので、キャッチしてこぼすのが嫌でした」と試合後に語り、イラク戦で同様のシーンがあった時のミスがよぎったと明かした。ただ、あの場面でパンチングにするならば、タッチラインに出す必要があるが、十分にキャッチにも行けたシーン。リスク回避かもしれないが、そのボールが最終的に失点まで行ってしまうのならば、マイボールにする方法を選ぶべきだろう。セットプレーを易々与えて仕舞えば、どうなるかは今大会で十分経験したはずだ。

その点では、ゴールを決めた堂安、久保建英(レアル・ソシエダ)、上田綺世(フェイエノールト)はクオリティと判断力を見せつた。堂安はボールに詰めるという作業を怠らず、久保は自らボールを奪い切り、最後もしっかりとGKを見てシュートを決めていた。反転しながらファーサイドに蹴り込むのは簡単ではない。そして圧巻は上田。相手のラインがズレているのを感じていた中、3人に囲まれた状態でも顔を出し、パスを受けると体の動きで突破。最後は自らGKの股間を撃ち抜いた。

堂安はサボっていれば詰められず、久保は諦めていればシュートは打たず、上田は自身が磨いてきたシュートを信じて撃ち抜いた。それぞれが、しっかりと状況を判断し、自分のプレーをやり切った結果の3ゴール。結果が伴うには、強い意志と、技術が伴う必要があることを改めて感じさせられた試合だった。
《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》

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