出会った頃は舎弟のように頭を下げてPlastic Treeを見送った!?
──お二人の出会いはいつでしたか?
桜井:20年前の対談みたい(笑)。出会いはもう下手したら20年以上前ですよ。Plastic Treeが「絶望の丘」を出す前ぐらいですね。
有村:あれ、そうだっけ? 『Hide and Seek』のときは出会ってなかったっけ?
桜井:ちょうど『Puppet show』を作ってたときじゃない。だから25年以上か。
──いきなり歴史を遡るような作品名が出てきて胸アツです。
桜井:共通の友人がいたからもっと昔から知ってるような錯覚に陥るけど、25年くらい。それでも相当前だけどね。
有村:多分、ライブを観に行ったはずなんですよ。
桜井:そうそう、ライブに来てくれて。
──どのライブだったとか覚えてます?
二人:(本八幡)ルートフォーティーン。
桜井:うちはメンバー全員で整列して「Plastic Treeさん、お疲れ様でした!」って舎弟のように頭を下げた記憶があるわ。本当にこの人たちのカリスマ性が凄くて。
有村:いやいやいやいや、そんな記憶ないから。絶対ない! 嘘はやめて(笑)。
──結成が93年の同期ですもんね。
有村:俺らが活動し始めたのは94年なので…まぁでも、ほぼ同期みたいなもんですよ。
桜井:機材車が見えなくなるまでずっと頭下げて見送ってたわよ。
有村:無理でしょ。あの通りを見えなくなるまでなんて。絶対やってないって(笑)。
桜井:当時のV系は任侠だったから。
有村:それはさておき、当初から意識する関係ではありましたよ。cali≠gariってどの辺に出てたんだっけ? (市川)GIOとか(浦和)ナルシス?
桜井:その頃、うちは(高円寺)LAZYWAYSが閉店してルートや鹿鳴、試行錯誤してたかな? 初めてLOFTに出たのもこの頃。GIOだったらAREA(オールナイトでやってたV系イベント)かな? その頃にはPlastic Treeは結成して1年なのに超人気バンドになっていて、GIOでブイブイ言わせてた感。
有村:いや、オールナイトイベントの夜中3時台とかだったよ。人がいない時間。お客さん寝そうになってるの。でも、cali≠gariは当時から既に異色でしたよ。ビラ一枚でも、特殊なバンドなのが伝わるしね。あと俺は当時からそういうアングラっぽい雰囲気のバンドがすごく好きだったんですよ。だからずっとずっと気になってた。細かい話なんですけど、あのハロウィンのイベントがクラブチッタであって、そのときに僕、あのベースと一緒、“三毛猫病院”ってコピーバンドやって包帯ぐるぐる巻きで。そこでcali≠gariのスタッフさんとか共通の友達と会って「気になってるんだよね」と伝えたことがきっかけでライブに招待いただき、それの流れでルートフォーティンまで観に行ったんです。
今さら無理して会わなくても良いくらいの深い付き合い
──初見からかなりのインパクトでした?
有村:本当に結構、俺衝撃で。想像以上にやばかった。せいちゃん(桜井)もだし、当時はボーカルにもびっくりしたな。他に類を見ないもん。でも割と早く打ち解けましたよ。あの頃は打ち上げとかもよく朝までやって…いや、朝どころじゃなかったね。
桜井:2丁目で朝まで行って、それでも終わらなくて…。
有村:公園とかで飲んでたよね。
桜井:そう、行く店行く店追い出されるから。それで最後は新宿中央公園。
有村:もう朝じゃなくて次の夕方とかになってたもんね。ずっと語ってて。おいおい、もう20時間くらい飲んでるぞ、みたいな。長かったね。
──まさに人に歴史ありですが、昨今でもこの交流は続いてたんですか?
桜井:別にあんまり遠くにいる感じもないし、そんなに会ってるわけではないですかね。
有村:年に2、3回、俺は割と会いたいですけどね。夕方までとか公園じゃなければ。
桜井:あなたは友達多いじゃない。私は基本友達少ないし、増やしたくないし、LINE10人くらいしかいないもん。
有村:それは嘘!(笑)
──誘いにくい的な?
桜井:だって一人でいても幸せだもん。あと、夜飲みに行くとどこかしらに知り合いがいる環境だから寂しくないっていうのもあるかも。
有村:交流が希薄っていうよりは、ある意味でかい大家族に属してるっていう距離感じゃないかな。無理して会わなきゃってことでもないぐらいの深い付き合いというか。
桜井:でも、友達多いし、毎日飲んでるんじゃないの?
有村:そんなことはないけど、まあ飲んではいるよね。昨日も(長谷川)正くんと朝5時まで飲んでた。
桜井:だからさ、メンバーと朝5時まで飲めるのがすごいよ。あり得ない。結成して30年よ?
有村:1時からバーのカウンターで二人で歌詞書きについて結構良い話をしてたよ。
桜井:30年やっててまだ良い話があるの!? うらやましい!
有村竜太朗
──(笑)ちなみに当時の新宿LOFT界隈ってどういう空気感だったんですか?
桜井:移転前の小滝橋にあったLOFTの楽屋でメイクって何歳からできたっけ? って世界ですよ。
──あぁ…厳しい縦社会が。
桜井:何十年も前の話ですけどね。当時の上下関係って本当に厳しくって。若手は楽屋なんて使えないから、通路でメイクをしてたんですよ。下手したらワンマンができるようになった98年頃まで使えなかった。で、問題があって。トイレが楽屋の前なんですよ。先輩…特に西のバンドとかが楽屋周りでスタンバイしていると、入りづらくって、メイクしたまま外に出て、他所の建物のトイレ借りてたっていう厳しい時代でしたよ。当時のLOFTは厳しい下積みのイメージですね。小滝橋通りにあって。今あるステーキ屋さんの向かい側かな。階段が細くてギュウギュウだからいつも通りに人が溢れててね。
有村:あー、俺、当時のLOFTにcali≠gariのワンマン観に行ってるもん。懐かしいね。
桜井:LOFTは常に楽しいライブができた憧れの会場ですよ。高校生の頃からずっと出たかったライブハウスでしたし。LOFTに出ればバンドとして認められる感じがあったよね。そういう気持ちは今でも持ってます。自分の誕生日である6月28日はできる限りLOFTで迎えたくて、毎年のようにLOFTで何かしらやれるようにしてる。
有村:僕もLOFTに出れるっていうのは嬉しかったですね。トイレにdipのステッカーがあって、それを拝むように見てたりしたなぁ。青春です。プラで言うと正くんはLOFTにお客さんとしてライブを観に行くことも多かったから、ひと際嬉しかったでしょうね。
桜井:自分のライブで演者として行くことも多いけど、今でも、普通にライブ観に行ったり、バースペースに飲みに行くことも多い不思議な場所です、LOFTは。
好きなジャンルも近いし、ライブを一緒にやることは極めて自然なこと
──ライブでの共演っていつが最後になるんですか?
桜井:もうかなり前になるんじゃない?
有村:東京地下室っていうイベントに出させてもらって、そのときにcali≠gari、MUCCと一緒にやってますね。その前もセッションの三毛猫病院とかでもギター弾いてもらったり、ステージでもたまに一緒になってはいますね。
──今回お互いにソロという組み合わせで言うとまた新鮮ですよね。オファーが来たとき、率直にどう思われました?
桜井:なんでですか? って思いました。変な意味じゃなく、純粋に。
──新宿LOFTの熱い想いにより実現したと伺っています。昨年9月にこの『2TO2』がスタートした時点で、まず母体バンドがありながらセカンドプロジェクトも活発な人を呼ぼうという意図があったそうで。その中でお二人の組み合わせがドリームマッチだという認識で間違いないと思います。
桜井:ありがたいことです。いや、最高の組み合わせだと思いますよ。
有村:嬉しいですね。
桜井:ただ、私の弾き語りという場末感のあるものをLOFTに把握されていると思うと怖いんですよ。
有村:場末って(笑)。
桜井:だって、涙流しながら中島みゆき歌ってるんだから。
有村:中島みゆきは涙流れることもあるんじゃない。
桜井:“なんでこんな生き方選んじゃったんだろう…”って。
──かなり人間味溢れてますね。
桜井:でも歌いながら、あんた金持ちなのにこんな歌詞書けるの? 一体何なの? みゆき、あなた何者なの? って気持ちにはなる。
──(笑)
有村:みゆき天才だよねぇ。素晴らしいよ。せいちゃんとは一緒にやりたいって気持ちがあってね、ずっと。2人でやるっていうのもわかりやすくていいなって思う。
桜井:もうルーツとかも今さら語る必要もないぐらい、好きなものも近いし、一緒にやることは極めて自然なことなんですよ。
有村:若かりし頃から、いつかバンドがなくなったりしたら、せいちゃんとか共通の仲間とたまに会って弾き語りとかしたりするんだろうなぁ…みたいなことを考えてたんですよ。20代の頃に漠然と思い描いてたことをできるちょうどいい機会でもある、俺的には。
桜井青
──実際はcali≠gariもPlastic Treeも武道館ワンマンもしているし、健在どころの話ではないのですが。
有村:うん。ソロ同士で対バンっていうのは考えてたんですけど、アコースティックっていう一番シンプルな形になって逆にとても良かったです。
──ソロであり、アコースティックということで語弊を恐れず言うと、お二人のことが大好きな、よりコアなファンの方が足を運ぶことになると思うんですよね。2マンの本質としてはどちらか一方だけを楽しむものではないじゃないですか?
有村:両方楽しんでほしいですよね。
──そういう意味でも熱量が高いお客さんが、青さんにも竜太朗さんにも触れる良いイベントだなって。むしろ新しいですよね。
有村:何より俺がせいちゃんのソロを観たことないので、それもあって当日が楽しみなんですよ。せいちゃんも俺のソロ観たことないよね?
桜井:そうね…ないね。YouTubeでは見てるけど。
有村:ははは!
──ちなみにライブの中身ってどれぐらい決まってるんですか?
有村:おっと。それを今日決めようかなと。って言いながらも本番まであと2週間(取材は1月末)しかないんですけどね。
桜井:基本、自分の持ち曲をやりますよ。だけど、聞いたところによるとこの日は持ち時間がたっぷりあるみたいなので、カバーもやろうかなって。
有村:カバーね。キーが全然違うと苦労するよね。
桜井:原曲キーでやらないとコード感が出ない曲もあるもんね。
有村:なるほどね。せっかく来てくれるお客さんに何か面白いことやりたいけどね。
桜井:サービスはしたいよね。まぁでも、自分で弾き語るとどの曲やっても“あぁ…桜井青の曲だな”ってなるんですけどね。
その人のバックグラウンドが分かるようなイベントがもっとあってもいい
──ここでキャリア30年のお二人に今こそお聞きしたいんですけれど、昨今、ヴィジュアル系と言われるシーンの中で様々な思考のもといくつもイベントが開催されているのですが、もっとこういうイベントあったらいいのになって思うことありますか?
桜井:なんかね、正当評価されないジャンルじゃないですか? だからこそ、その人が通ってきたバックグラウンドが分かるようなイベントはあってもいいかもしれないですね。“この人たちって本当はこういう音楽から来てるんだ~”みたいなものがわかる…そうですね、具体的には<スマパンナイト>とか<キュアーナイト>とかね。
── 一例ですけど、The Smashing Pumpkinsをカバーすることによってルーツを知り、ファンの方も好きなアーティストのさらに内面に迫るイベントですよね。紙媒体も減りましたし、今って意外とルーツを追えないんですよね。ライブに足繁く通う方なら開演前のBGMなどから察しがつくこともあるかとは思うんですけど。
桜井:カバーイベントって敷居高そうだけど、案外面白いんですよ。音楽単体のもとにアーティストもお客さんも集うから、母体となるバンドのときとは違う一面も出てくるじゃない。狭いジャンルの中で凌ぎを削って闘う、バトルロワイヤルのようなものは世の中にゴマンとあるし。
有村:面白そうだよね。ただ、いわゆるヴィジュアル系の人が集まってっていうのは俺は想像できないかな。もっとジャンルとか関係なくゴチャっと集まる感じだよね。
桜井:私も同じくよ。80年代から90年代初期を跨いでるかどうかでルーツが変わってくるのよね。それこそ我々の世代のルーツにはそもそもヴィジュアル系っていないし。
──それこそThe Cureカバーナイトだったり、いつかやってほしいですけどね。お客さんの層もだいぶ変わりそうで。
有村:そうそう。そのイベントだったらお客さんだけじゃなくて、出演する人たちもバラバラですよ。そういう雑多なのは興味ありますけどね。
桜井:でも我々もキャリア30年ですよ。30年経った今、「私たちのルーツもみんな知ってる?」って言っても、お客さんには既に散々伝わってしるし、そういったイベントがあっても、我々が楽しいだけになる可能性はあるよね。
有村:アーティストの縛りがあったら面白いけどね。スライダース(THE STREET SLIDERS)しかやらないとか。
桜井:我々はもうジャンルっていう概念のところにはいないというか、Plastic Treeだって別にV系なの? って話じゃない。ちょっと聞いてほしんだけどさ…。
有村:何?
桜井:定義で言ったらうちもV系だけど、「あんたもしかしてまだ顔で売れてると思ってんの?」って言われたの。
有村:誰に?
桜井:メンバーとスタッフに。
有村:あははははは!
桜井:なんのために化粧してるの? って、そんなの少しでもマシになるためじゃない! あの言葉で私の心が折れたわよ(笑)。まぁ話を戻すけど、ルーツで言うと私たちはV系じゃなくて『宝島』世代なのよね。BUCK-TICKやTHE STALIN、THE BLUE HEARTS、THE WILLARD、アンジー、JUN SKY WALKER (S) と言い始めたら山ほどありますけど、そういうものが伝わるイベントなら大喜びよって話。
自身のルーツを辿る原点回帰的イベントであり、奥深さも滲み出るはず
──改めて、今回はアコースティックということで、これもプレイヤーとしてはルーツと言いますか、原点回帰で。
桜井:そうですね。どんな人も一度、アコースティックに舞い戻るじゃないですか? そもそもバンドを始める前に弾き語りとかから始まってるわけだし、自然な流れなんですね。ルーツというか原体験に戻るだけなので。
──このキャリアだからこそのアコースティックの味もあると思うんですよ。
桜井:うん。若い頃は、メロディに対してのコードがすごいベタな感じだったんですよ。いわゆるフォークなやり方ですよね。ただここまで長くやってると、コードに対してのメロディの乗り方が変わってくる。フォークな感じじゃなくなってくるんですよ。不思議なんですけど、昔の曲って今やると、自分で作ったのにも関わらず、コードが変わってるんですよ。
──どうしてそういうことが起こるんですか?
桜井:これ、メロディは一つでもコードって無限に乗せられることに気が付いたんでしょうね。曲をたくさん作っているうちにいろいろ覚えていって。昔はセブンスもナインスも知らないからベタなんですよ。
有村:そういうことね。自分の中でクセになってるコードとかもきっとあるよね。
桜井:いわゆるアンサンブルの中でやっているものを、アコースティックに落とし込んだ結果、気が付いたんですけどね。だからやっぱり面白いなと思いますね。
有村:知識がなかったからこそ面白いものができたりもするしね。プラだとメロは俺が作ったけどコードは正くんみたいなのもあるから、改めてギター一本で弾き直してみると“なるほど、こうなってたんだ”という気づきもある。
桜井:うちも気づきがあって。今回さ、30周年で「冬の日」を録り直したの。研次郎くんがいるからなんだけど、コードをこんなにオシャレにしてくれてたんだ、本当はこうなるのに…っていうことで、23年ぶりにダサいほうのコードをあえて使ったりして面白かった。
有村:バンドでやるのとアコースティックでやるのは全然違うからね。
桜井:コード感とかは顕著にわかりますよね、アコースティックに戻ると。あと私はギターだから譜割とか何も考えないで曲作っちゃてるんですよね。だから、アコースティックに立ち戻って、自分が歌ったときに初めてボーカルの気持ちがわかるっていう。この辺でブレスないとキツいよね。特にうちで言うと「ブルーフィルム」なんか、もうTOM★CATかよ!? っていうぐらいきついの。「冷たい雨」もなかなか。
有村:八分音符でブレス一個ってなかなかだけど、まあそこは秀仁くんだから歌えるんだろうね。
桜井:ナカちゃんの曲の場合はどうなの?
有村:ナカちゃんのは、たまにむずかしいよ(笑)。でも、作ってきた曲に応えたいじゃないですか。そういう気持ちなので基本的には頑張ります。どうしても無理ってときは言うかもしれないですね。
桜井:石井さんなら「“これは”無理」って言いますよ(笑)。
有村:自分で作る場合は基本的にギター一本で成立するものしかないので、そこの差を感じれる機会でもありますよね、アコースティックとか今回みたいなイベントは。
──先ほど青さんもおっしゃってたルーツを探るイベントとかって今ないよねっていうのもそうなんですが、こういうベーシックなイベントも貴重ですよね。削ぎ落すことでむしろ芳醇な味覚に出会えるという。
桜井:だからこういうイベントのときにこそルーツが匂い立つんじゃないですか。さっき言ってたじゃないですか、このイベントを選ぶのはコアなファンだって。コアなファンってルーツとかにまで興味を持ってくれてると思うんですね。だから今回は、双方のルーツみたいなバックグラウンドまで感じ取ってくれたら、それは嬉しいことだと思います。
有村:このイベントだけの楽しみもちゃんと提示したいとは思っていて。せいちゃんとも2人で会おうねってずっと言ってたんですよ。連絡返ってこなかったけど。
桜井:忙しいに決まってるじゃない。
有村:ははは。まぁでも、今からお客さんが喜んでくれるようなことを考えますよ。今からって言うか、この後、2人で飲みに行って。こういうイベントは僕的には毎年にやりたいなって思っているぐらいなので、その辺りも。
──今回成功したらその先も自ずと見えてくる、と。
桜井:普段ギターの人間が歌うという行為で、浮彫りになるものみたいな奥深さも滲み出るイベントになると思います。来てくれるお客さんはぜひ音楽を楽しんでください。顔で来る人はいないはずなので。
有村:わかんないよ~。
桜井:そういう慰めが一番いらないのよ!!
有村:いや、わからないですよ! ってことで(笑)。