あなたの分まで生きたい 「午後4時10分」それぞれの思い

地震発生時刻に合わせ、避難所前で黙祷する住民=1日午後4時10分、珠洲市宝立町鵜飼

  ●遺族「時が止まったまま」 1カ月、県内祈りの沈黙

 午後4時10分。あの日から1カ月を知らせる放送が流れると、能登半島地震で被災した石川県内の各地は、長く、つらい時間をかみしめるような沈黙に包まれた。1日、家族や知人を亡くした多くの被災者に訪れた一つの節目。「あの人の分も生きたい」「必ずふるさとに戻る」と復興に向かおうとする気丈な住民がいる一方、「時が止まったまま」と癒えない心の傷を抱えた人の姿もあった。

 「黙祷(もくとう)」。珠洲市では防災無線を通じて市民にそう呼び掛けられた。地震と津波に襲われた同市宝立(ほうりゅう)町の宝立小中では避難所の運営スタッフら約30人が玄関先で海に向かい、祈りをささげた。スタッフの多田進郎さん(69)=宝立町鵜島(うしま)=は故人となった顔なじみの理髪店夫婦や書店の店主らとの思い出に浸り「亡くなった人たちの分も前を向きたい」と語った。

  ●「必ず戻る」

 焼け焦げた街並みに粉雪が舞った輪島市河井町の朝市通り。17歳の時から31年間、露店商として海産加工品を販売してきた南谷良枝さん(48)=同市気勝平町=は「朝市が私たちの原点。必ずここに戻ってくる」と決意した。輪島市朝市組合の冨水長毅組合長(55)も「元気なおばちゃん、組合員が財産。復興の思いを切らさないことが大事」と力を込めた。

 穴水町役場では発生時刻に合わせて職員や避難者らが静かに目を閉じた。大規模な土砂崩れの犠牲になった高田美穂さん(34)と小中高校の同級生だという町職員の谷川和貴さん(34)=穴水町川島。明るい性格だった高田さんに思いをはせ「彼女の分まで一生懸命生きる。町民の生活再建を第一に取り組みたい」と誓った。

 愛する家族を失い、気持ちの整理を付けられない被災者もいる。珠洲市三崎町小泊で実家が倒壊し、母の茨山美智子さん(96)を亡くした長男邦夫さん(75)=金沢市直江町=は「1カ月過ぎたが、地震が頭から離れない。母の死を今も受け入れられない」と言葉を絞り出した。

 「悲しみ、つらさが日に日に膨らんでいる」。珠洲市仁江(にえ)町の土砂崩れで妻と3人の子どもを亡くした県警警察官の大間圭介さん(42)は、金沢市の自宅で家族の遺影に向き合った。前に進んでいきたい思いはあるとしながらも「時間は止まったまま」と沈んだ声で話した。

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