大型案件を数多く受任  岡野真也弁護士に独占インタビュー  ~ 清水直弁護士から受け継いだ企業再生への想いと深化 ~

2023年はホテル運営のユニゾホールディングス(株)(TSR企業コード:293391149、以下ユニゾHD)、パチンコホール大手の(株)ガイア(TSR企業コード:320363295)など大型倒産が相次いだ。海外資産や店舗への担保設定など複雑を極めた両社の債務整理は「高度な対応力が必要」と再生実務家や金融関係者は口を揃える。
両社の申請代理人を務めた岡野真也弁護士(弁護士法人岡野真也法律事務所)が東京商工リサーチ(TSR)の取材に応じた。
事業再生の大家で、師と仰ぐ清水直弁護士の下でキャリアをスタートし、「経済的、社会的損失を出さない、関係者全ての幸福に資する私的整理」を基本軸に、事業再生・債務処理に取り組む岡野弁護士に事業再生への想いを聞いた。


―第49期で司法研修所に入所後、1997年に清水直法律事務所(以下、清水事務所)に入所した

元々は検事任官する予定であった。ある日、先輩弁護士から「何故弁護士にならないのか」と聞かれた。当時、弁護士というと法廷活動をメインとした局地戦が業務というイメージであり、その意味で、さしたる魅力を感じていなかった。そのような趣旨の返しに対し、「仮に弁護士になるとしたらどういう仕事であればやりたいと思うのか」と問われ、今思えば若気の至りだが、響き良く「クリエイティブでダイナミックな仕事がしたい」と答えた。すると、「企業再建やM&Aなどに興味はあるか」と返された。当時は都市銀行の合併が正に始まった時期であったが、法務面のみならず条件設定やスキーム構築、資金調達の実務まで弁護士が担っていること、企業再建も弁護士が主導して行われており、清水直先生がその中心にいることを教えてもらった。
当時、修習生はグループで事務所を訪問することが多かった。私が知らぬ間にその先輩弁護士が手を回してくれて、あるグループに紛れ込む形でお邪魔することとなった。すると、事務所のセンタテーブルに置かれたテレビでは国会中継の録画が流れていた。いわゆる住専国会である。参考人として「私企業である住専の処理のために、国民の血税6,850億円を投入することは断じてまかりならん!」と論陣を張る清水先生の姿が延々と映し出されていた。少しすると、会議室のドアが開き、仕立ての良いネイビーのストライプのスーツにピンクのワイシャツを着た人物が入ってきて、凄いオーラで「私が清水直です」と。清水先生との出会いだ。この時に「この先生のところで修行できるなら弁護士もあるか」と直感が走った。
ただ、清水直事務所の採用は当時2年に1人で、独立などで席が空いたら都度採用する状況だった。すでに2年に1人の採用が決まっていた。席がなかったが、急遽、上の先生が独立することになり(後日、私のために席を空けてくれたことを知った)、清水先生から直接お誘いのお電話をいただいた。その意味では、今想うと運命的な展開であった。
当時は、バブル崩壊後とは言え、まだ大きな倒産は少なく、法的、私的問わず企業再建は限られた極々一部の弁護士しかやっていなかった。しかし、入所した瞬間、負債総額1,000億円規模の特別清算から始まり、翌月には地方タクシー会社の会社更生申立、3カ月目からは、多田建設(株)(TSR企業コード: 291067220、1997年7月、会社更生)に常駐して対応した。これがキャリアの始まりだ。

―2006年9月に独立した。経緯は

清水直弁護士の考えには「弁護士たるもの一国一城の主たれ」との哲学が厳然としてある。私より以前に入所した歴代の先生は長くても5年ほどで独立されていたが、大型の倒産事件が引きも切らなかったこともあり、清水先生が離してくれず、約10年在籍した。清水先生の下で管財人代理を務めたあしぎんフィナンシャルグループ(株)の更生手続が終結したタイミングを区切りとして独立のお許しを得たが、独立後の事務所も清水事務所と同じビル(現八重洲ミッドタウン所在地)の8階に構えた。その後、詳細は分からないが、清水先生がビルのオーナーに話を通してくれたのかもしれないが、3階の広いフロアを借りることができた。独立したと言っても、場所的には変わらなかった(笑)。
清水先生の教えにもあるが、相互補完は別として私自身「つるむ」ことが好きではない。独立後、事務所を拡大路線とするか、それとも職人路線に徹するか、非常に悩んだ時期がある。清水事務所のOBと合流する話や単純に「イソ弁」を大量採用するなど案は色々あった。ただ、一言でいうと「向いていない」。大事務所という体裁を追求すること自体もそうだが、仕事のクオリティに対するハードルが非常に高い人間と自覚しているので、そこに到達しない人の面倒を見られないと思った。誤解を恐れず言えば、受任した案件は「全て一人でやる」くらいの気概がないと、この仕事は務まらない。若いころは、債権者との交渉、関係者調整は当然のこととして、事業計画や資金計画、弁済計画(の策定)、スポンサー選定手続まで全て一人でやっていた。弁護士人生も25年を過ぎ年を重ね、また、他の専門家のスキルも総じて向上してきた現在ではチームを組むことも多くなったので楽にはなった。一騎当千の弁護士が周りにいて、私を助けてくれている。

―岡野弁護士は「自主再建の人」とのイメージである。事務所のHPを見ても、私的整理、とりわけ自主再建へのこだわりを感じる

自主再建であれば、金融債権のリスケや、(商取引債権における)支払いサイトの延長等をお願いすることはありながらも、債権カットによる経済的損失を債権者に与えない。放漫経営は論外だが、適正な規模の従業員の雇用や家族の生活も守られる。また、経営者も、地位も名誉も財産も全て失い、「あとは生活保護です」という事態を避けられるし、取引先にも破たんによる供給停止や欠品、アフターサービスの不能、商圏の喪失等諸々のご迷惑を掛けずに済む。要は、不幸な目に遭う人々を極小化することが可能な手続であり、社会合理性、経済合理性の観点からも、手間暇がかかるとしても、まずは、自主再建を希求するのは当然であると考えている。

自主再建への想いを語る岡野弁護士

また、抜本再生という言葉もあるが、これは非常に多義的だ。だが、債権カットの有無に関わらず、オーナーチェンジや経営陣の入れ替えは抜本的ということになるであろう。

―私的整理を遂行するうえで大切なこと

私的整理に限らず企業再建、事業再生を担う弁護士として大事なことは、月並みだがまずは正義感、倫理観、胆力。そして人の心に寄り添う気持ち。虚心坦懐、話をしっかり聞いて、その人になった気持ちで考える、この立場になったとしたら「どうして欲しいと思うか」「何を欲するか」を考えることが大切だ。その意味では、優しさや寛容性、共感力が絶対に必要で、私的整理が得意な弁護士は総じてそういう性質を持った人だと思う。我々、少なくとも私は、(窮境局面にある企業の)一定の資料をお持ちいただいて、一通り話を聞けば事件の筋、結論は大体見通せる。しかし、その場で結論めいたことは絶対言わない。中には言ってしまう人もいるが、そういう人は、法的整理に持っていきがちだが(苦笑)。
頭から「これしかない」というような決めつけはしないようにしている。一方、経営者も本当に信頼できる弁護士に出会い、明鏡止水の心境で委ねることができれば再建の確率は飛躍的に高まる。清水先生は「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」とよく話されていた。
また、相手が何を考えているかという洞察力や流れを読む力、武器を繰り出すタイミング、柔軟な発想力、粘り強さや長いものに巻かれない不撓不屈の精神、臨機応変な対応力、そして、経営者に対するクイックレスポンスも重要だ。
経営危機に瀕した経営者は皆誰もが初めての経験で(複数回の強者もたまにいらっしゃるが)、心千々に乱れ、「これから会社はどうなってしまうのか」「自分は、家族は、どうなってしまうのか」等々言いようのない不安、恐怖に苛まれている。例えば、自分が原因不明の体調不良に襲われたとき、ドクターから、「大丈夫、こういう治療をして、こうすれば、〇日位で必ず治りますよ」と言われるとほっとして躰に力が戻ってくるものである。窮境にある経営者と接するとき、常に自分が患ったときの気持ちを鑑として対応することを心がけている。

―ユニゾHDやガイアなど、2023年の大型事件を立て続けに受任した

抽象的な言い方になるが、難しい案件や規模の大きな案件は、金融機関やファンド、コンサルタントなどから突然連絡が来る。
ユニゾHDのスポンサー契約の締結は10月末を予定(最終的に11月末)し、その交渉をやりながら10月30日にガイアの民事再生を申請した。非常に難しいタイミングであったが何とか対応出来た。倒産事件は待ったなしであり、その中でも格段に差し迫った事案であったが、清水事務所時代に徹底して鍛えられているので、その経験も生きた。
ユニゾHDは、海外事業の処理も大変複雑であるが、こちらは、大手法律事務所倒産チーム出身の米国法に長けた弁護士と現地の法律事務所と連携して対応してもらっている。

大型案件を多く受任する岡野弁護士

―大型案件では諸橋隆章弁護士(ライジング法律事務所)とタッグを組む事が多い

諸橋弁護士を清水事務所に入所させたのは私だ。彼は実務修習で清水事務所に来ていたが期が離れていることもあり私とはほぼ接点がなかった。ある日突然、清水先生から「諸橋君は君が修習生の時にそっくりなんだよ」「彼うちの事務所にどうかな、岡野先生、目利きをしてくれ」と言われた。ボスの命令(苦笑)でもあるので、すぐ食事に連れて行き、数時間話をした。「いいな」と感じ、清水事務所に来るように誘った。既に他の事務所に内定していたらしいが即断したようだ。
彼は当初から優秀だった。まず気が利く。これは、すなわち、先を読もうとする姿勢、相手が何を欲しているか、次にどう動くかを洞察する本能的な力が高かった。そして、聡明であり、胆力と度胸もある。清水事務所出身者は皆優秀であるが、大きな案件は諸橋弁護士に手伝ってもらっている。彼は私のことを「兄貴」と呼ぶ。以心伝心、阿吽の呼吸で共に雲外蒼天の気概を持って案件を進めている。まだまだ道の途中ではあるが、次の(倒産村の)担い手は彼だと思っている。

―プレDIPやDIPファイナンスなど窮境局面の企業へのファイナンスの取り組みが金融機関で進んでいる

本当に資金が必要な企業には、彼ら(窮境企業への融資に取り組む金融機関)でも貸付実行には高いハードルがある。やはり、法的整理に一度入った方が共益債権の恩恵を受け、借りやすい、貸してくれるケースが多くなるのが実情であろうと思う。それでも以前に比べれば相当進化していると感じる。
ファイナンスの選択肢が広がることは良いことだ。現在、取り組んでいる金融機関も「思ったほど実績が上がらない」、「ビジネスとして成り立たない」、「広告宣伝費としてみるとしてもコストパフォーマンスが悪い」などの理由を付けて撤退することなく、細くても長く続けることによって大きなリターンが返ってくると思う。引き続き、ともに研鑽、研究を重ね手数を増やせることを期待している。

―債権者説明会など債権者の前に立つ際のスーツの着こなしが一部で話題だ

こだわりは、と聞かれればストライプであるが、そもそも、スーツはストライプのものしか持っていない。債権者説明会のときは、そのなかでも一番地味なものを選んでいる。白いワイシャツは持っていないので、無地かストライプでも一番色が薄いワイシャツ、ネクタイも落ち着いたものを締めるようにしている。そこまで債権者の皆様から見られているとは思っていなかった(笑)。

―債権者説明会で話す際に心がけていることは

先程の話と通じるところがあるが、まず、自分が債権者の立場であったとすれば何を聞きたいか、聞くとするとすれば、どのような質問をするかを考える。その上で、可能な限り明快に、かつ、判りやすい言葉で、整理してお伝えすることを大事にしている。聞かれたくないことは聞かれるまで言わないとか、あわよくば聞かれなければいいとかではなく、先に話すようにしている。また、言い切ることも心がけている。


ユニゾHDの民事再生では、申請時に基本合意していたスポンサーを再選定し、KKRグループや外資系資産運用会社とスポンサー契約を締結した。担保弁済はすでに終え、再生債権者への基本弁済率20%を軸とした再生計画案は3月に決議される予定だ。
また、ユニゾHDの再生手続き中に民事再生を申請したガイアの事件では、グループ6社も同時に法的手続きを申請した。スポンサーを選定し、事業継続に必要な商取引債務等は弁済禁止の対象外として、遊技メーカーなど取引先の連鎖倒産を防いだ。
清水直弁護士の下で事業再生を学んだ多くの弁護士が、倒産村で連携しながら高度な企業支援を続けている。
コロナ禍で過剰債務に陥った経営不振を中心に倒産件数は急増している。医師の気持ちを持つ「妙手回春」の事業再生弁護士への期待は高い。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年2月2日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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