「限界集落にお金を使っても…」SNSの被災地切り捨て論に心痛む 七尾市出身の喜屋武さん「家族や友人が苦しんでいる」

能登半島地震で犠牲になった女性の自宅に掲げられたままのしめ飾り=1日午前、石川県七尾市

 能登半島地震の発生から1カ月。交流サイト(SNS)では「限界集落にお金を使っても…」などという被災地切り捨て論が横行する。大きな被害を受けた石川県七尾市の出身で、今は沖縄県浦添市に住む南部農林高校の音楽教師、喜屋武いつみさん(32)は「ふるさとで暮らしてきた人たちがないがしろにされているようで、すごく苦しい」と悲しみに暮れている。(社会部・吉田伸)

 喜屋武さんは高校の修学旅行で訪れた沖縄に魅力を感じ、沖縄県立芸術大学に進学。そのまま沖縄に住み14年になる。里帰り出産など機会があるたびに帰省しており、昨年12月にも帰ったばかりだった。

 ふるさとの七尾市三室町は能登半島中央にある人口約300人の過疎地域。実家には両親や兄、94歳の祖母が住む。地震直後、電話がつながった母は「ずっと揺れている」とおびえた。家族は夜遅くまで一つの部屋に集まったまま身動きできなかったという。

 実家は倒壊を免れたが、屋根の瓦がずれて雨や雪が屋内に漏れてくるため、ブルーシートをかぶせてしのいでいる。修理のめどは立たない。シートの数が足りず、悪質な業者に高値をふっかけられた住民もいる。

 断水の解消は4月になる見込みで、まだ風呂に入ることもできない。調理ができず、食事はレトルトばかり。詐欺や性犯罪への注意を呼びかける情報も飛び交っているという。

 「育った町が壊れ、ふるさとの人たちがいっぱいいっぱいの状態で苦しんでいる」。喜屋武さんは、家族や友人から電話で状況を聞くたびに心を痛める日が続く。

 2007年にも震度6強の地震があった能登半島。以降、何度も地震に見舞われてきた。「日本はどこで地震が起きてもおかしくないのに、国は対策せずに、個人任せ」と憤る。「国民一人一人が関心を持って声を上げて、行政を動かさないといけない」と話した。

喜屋武いつみさんは故郷を離れている友人たちと「目の前のことを頑張って地元に貢献しよう」と話し合っているという=1月29日、豊見城市・南部農林高校

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