社説:外国人妊娠制限 人権守る体制が必須だ

 外国人労働者の人権を守る体制づくりが急務だ。

 技能実習や特定技能の在留資格で働く外国人女性が、国内外の関係機関から妊娠しないよう指導されていた実態が明らかになった。

 妊娠や出産を理由とする不当な扱いは、男女雇用均等法で禁じられている。外国人も、産前産後休暇や育児休暇が取得できる。子どもを産み育てるかどうかを自分で決める「リプロダクティブ権」の侵害にほかならない。

 深刻な人手不足で外国人労働者の受け入れ拡大が進む一方、その人権をないがしろにすることは許されない。

 共同通信がNPO法人を通じてベトナム人女性ら約90人に実施したアンケート結果では、約6割が来日前に、採用の仲介を担う母国の「送り出し機関」から「妊娠したら帰国しなければいけない」との指導を受けていた。

 特定技能で働く人の生活をサポートする日本の「登録支援機関」からも、妊娠制限の指導を受けたり、来日前に避妊リング装着を求められたりした人がいた。

 日本で働くための事実上の圧力ではないか。早急な改善と再発防止が必要だ。なぜ指導をしたのか、詳しい実態把握も求めたい。

 背景には、受け入れ側の日本の中小零細企業で、妊娠・出産による急な職場離脱を敬遠する意向があるという。

 技能実習生を巡っては妊娠で退職させられたり、孤立出産したりする事例を受け、出入国在留管理庁が2022年に調査を実施。関係先に注意喚起してきた。そうした対応では不十分なのは明らかだ。行政と企業は、産休取得に向けた環境を整えねばならない。

 技能実習制度は賃金未払いなどが横行し、国内外から「人権侵害の温床」「強制労働」と批判を受けてきた。政府は廃止し、今国会に新制度の関連法案を出す方針だ。だが職場変更の条件や、不正行為が相次いだ「監理団体」が受け入れを仲介する枠組みが残る。本当に環境改善につながるのか。国会で十分な審議を求めたい。

 さらに政府は外国人労働者を中長期的に受け入れる特定技能制度で、人手不足が深刻な自動車運送など4分野の追加を検討する。

 体制が整わないまま労働者の受け入れを広げれば、さらなる人権侵害を生みかねない。専門家からは差別を防ぐ法整備を求める声が上がる。「安価で使い捨て」の労働力ではなく、同じ生活者として守られる仕組みが不可欠だ。

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