社説:介護報酬改定 訪問サービス減額は疑問だ

 厚生労働省は2024年度から介護事業所に支払う介護報酬を1.59%のプラス改定にする。介護職員の賃上げを促し、担い手確保を進めるため、24年度2.5%、25年度2.0%のベースアップを目指す。

 介護現場では人手不足が深刻化し、22年は仕事に就くより離れる人が多い「離職超過」に陥った。賃金水準が全産業平均に比べ約7万円低く、他産業への流出に歯止めがかからない状態が続いている。

 現状では、団塊世代が75歳以上になる25年度には介護職で32万人以上の担い手不足が見込まれる。このままではサービスを希望通りに受けられない人が続出しかねない。介護現場の労働条件の改善は待ったなしで、賃上げを促す改定は当然の措置といえる。

 問題は、それでも着実な担い手確保につながるかは不透明なことだ。物価が高騰する中、大企業を中心に賃上げが進む。2~2.5%のベアでは他産業との格差は埋めがたい。

 報酬改定で特別養護老人ホーム(特養)や老人保健施設などの基本料が引き上げられる。運営者は確実に賃上げに反映させ、サービスの質向上に努めねばならない。

 理解に苦しむのが、訪問介護のサービス報酬の減額だ。例えば20分未満の身体介護は1回あたり4円減額される。短時間の訪問介護サービスを積み重ねている事業所の経営が圧迫されるのは目に見えている。

 減額措置は、介護サービス全体の中では利益率が高い、という厚労省の調査に基づくが、現場の実情を反映しているとは思えない。

 信用調査会社によると、昨年の訪問介護事業者の倒産は、滋賀県の2件を含む過去最多の67件に上った。地方を中心に事業休止も増えている。

 訪問介護事業所の利益率が高く見えるのは、離職が進んで人件費比率が低下したり、管理職が訪問介護の業務を兼務するなどしているためという現場の声もある。

 国は高齢になっても住み慣れた地域で必要なケアを受けて暮らせる「地域包括ケア」の確立を目指している。その支え手である訪問介護の報酬を減らすのは、ちぐはぐではないか。

 生活の支援から入浴、排せつの介助まで、幅広い業務を限られた時間で丁寧に行うのが介護ヘルパーの仕事だ。経験に基づく高いスキルが求められる専門職として、相応の処遇に早急に改める必要がある。

 介護報酬の引き上げは、保険料や利用者負担にはね返る。一方で利用料2割負担の対象拡大も検討課題に上がる。

 場当たりで制度に手を入れるのではなく、公費投入の割合や負担と給付の将来展望について選択肢を示し、丁寧に議論を進めることを求めたい。

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