人手不足の時代に人材関連サービス業の倒産が急増 ~中小の人材紹介会社は長い冬の到来か~

人手不足が深刻さを増した2023年。有卦(うけ)に入ると思われた人材関連サービスの倒産件数(94件)が、コロナ禍前の2019年(70件)を4年ぶりに上回った。
職業紹介業では2000年以降で最多の16件発生、コロナ禍前の2019年(4件)の4倍に急増した。人手不足で求人ニーズが増えるが、クライアントの条件に見合う候補者を確保できない中小の職業紹介業は多い。また、コロナ関連支援の対象も明暗を分けた。
東京商工リサーチ(TSR)が、職業紹介業の動向を探った。


職業紹介業とは

人材関連サービスの事業分野は多岐に渡る。総務省の職業分類では、職業紹介業と労働者派遣業に大別される。両者の違いは、人材の紹介先での雇用形態が「直接」か「間接」かによる。
直接雇用を紹介する職業紹介業のサービスは、多岐に渡る。テレビCMなどで目にする大手の総合人材グループが手掛ける転職エージェントやスカウトサービスから、マネキン紹介や1日単位、数時間単位の労働をマッチングするアプリ提供の会社も含まれる。
また、企業のコア業務を担う正社員の紹介を中心とする職業紹介会社は、それぞれ強みを持つ業界や職種があり、例えばITエンジニアや医療分野、コンサルティング、現場のワーカーなど細分化される。
職業紹介業は候補者を客先に紹介し、マッチング成約後、候補者に提示された給与報酬に応じ、各社基準の紹介料を請求するスキームが一般的だ。
いずれも競合がひしめき合い、紹介先の開拓や候補者の確保に日々しのぎを削っている。
一方、労働者派遣業は、自社で従業員と雇用契約を締結する。そして、労働者派遣法に基づき客先に労働者を派遣して売上をあげ、そこから従業員の給与と雇用に係る諸経費を支払い、残りを利益とするスキームである。

職業紹介業の業績推移

TSRの企業データベースで、職業紹介業を2022年8月期から2023年7月期を最新期(2023年)として5年間の業績を分析した。
コロナ禍前の2019年は売上高6,762億円だった。そしてコロナ禍2年目で、一時的に新規採用を中止した企業が増えた2021年の売上高は6,577億円に落ち込んだ。
2022年はコロナ禍で社員のリモート化で需要が増大し、売上高は7,255億円に回復した。2023年は経済活動が活発に転じ、売上高は8,066億円と過去5年で最高を更新した。
最終利益は、2020年の407億円が2021年はコロナ禍で199億円と半減した。だが、その後は回復し、2022年は364億円、2023年は407億円と順調に回復。大手の人材紹介会社を中心に、高いニーズと紹介料の上昇が押し上げた格好だ。

倒産件数の推移

2000年以降の職業紹介業の倒産(負債1,000万円以上)は、2015年の7件をピークに低水準で推移。2019年も4件にとどまった。コロナ禍で採用市場が縮小した2020年は12件と3倍に急増したが、2021年は採用市場が動き出し9件に減少。その後、深刻な人手不足が表面化すると、2022年は11件、2023年は16件と右肩上がりで増加し、2000年以降で最多を更新した。
一方、同じ人材関連サービスである労働者派遣業の倒産は、2019年は66件だった。コロナ禍の2020年は56件(前年比15.1%減)に減少。次いで、2021年は25件(同55.3%減)、2022年は55件(同120.9%増)と増え、2023年は78件(同141.8%増)と急増した。
2019年から2023年にかけての職業紹介業と労働者派遣業の倒産件数は、異なる推移をみせた。
これは新型コロナ感染拡大に伴う雇用調整助成金(雇調金)の存在が影響している。厚生労働省は派遣元事業者に対し、一定の要件での雇調金の特例措置を講じ、積極的な雇用維持を促した。派遣従業員の休業や契約終了は雇調金で一部守られ、派遣会社の倒産は抑制されたとみられる。これに対し、職業紹介業は、雇調金の支援がなく事業環境の悪化が経営を直撃した。

職業紹介業の倒産

2023年の職業紹介業の倒産は、小規模中心で、負債の最高は3月に破産した(株)ヒットビット(藤沢市)の約3億7,000万円だった。
ヒットビットは1969年に「湘南配膳人紹介所」として創業し、業歴54年を数える業界老舗だった。一時は約7,000名の登録スタッフを抱え、大手ホテルなどを対象に2011年6月期は売上高6億4,965万円をあげていた。
しかし、業界内の競争激化で売上はジリ貧をたどった。そこにコロナ禍に見舞われ、2020年10月で事業を停止した。
9月には(株)F2F(品川区)が、破産を申請した。医者や医療専門職の紹介を手がけていたが、売上高は3,000万円台と零細規模を抜け出せなかった。いずれも大手との競合で、候補者確保に苦戦を強いられた典型例だった。


2023年に倒産した職業紹介業の16件のうち、資本金1,000万円以下は8社と半数を占めた。労働者派遣業は、厚労省の許可基準で基準資産額2,000万円以上と定められている。一方の有料職業紹介事業は、基準資産額は500万円以上で小規模事業者も参入しやすい。
深刻な人手不足は、人材関連サービス業も例外なく影響を受けている。大手より体力の劣る小規模事業者は、難航する人材獲得の目途が立たずに、倒産に追い込まれるだろう。これは産業構造の転換の兆しなのか、人手不足の副産物なのか。答えは早く出るのかも知れない。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年1月31日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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