長崎市の「平和への誓い」応募者募集を開始、条件緩和も伸び悩み

昨年8月9日、長崎市の平和祈念式典で「平和への誓い」を読み上げる工藤さん=出島メッセ長崎

 毎年8月9日の長崎原爆の日に開かれる長崎市の平和祈念式典。被爆者代表が自らの体験を基に核兵器廃絶を訴える「平和への誓い」は被爆25周年の1970年から続き、2017年から公募制になった。より門戸を広げるため、市は毎年、応募条件を緩和しているが、願いに反して応募者数は伸び悩む。今年の募集は1日から始まり、手話や外国語での朗読可能と要項に初めて明記するなど模索が続く。

■手話や外国語可
 被爆者代表は長年、市内の被爆者5団体(当初3団体、現在4団体)が持ち回りで選んでいたが、市は15年、公募で人選する方針を表明した。被爆者団体側は「(誓いで)政府批判が続いたことへの圧力ではないか」と反発。その後も協議を重ね、市が公募し、被爆者団体や学識経験者らでつくる選定審議会が選ぶ形に落ち着いた。
 公募となり、被爆者団体に属していなかった岡信子さん(21年に93歳で死去)や県外在住者が選ばれるなど一定の成果が見られた。一方、応募者数は公募が始まった17年の21人が最多で、18~21年は12~20人で推移。近年は11人(22年)、7人(23年)と減少傾向をたどり、新たな応募者はほぼいない状況という。
 対象は長崎原爆に遭い、核兵器廃絶などの活動経験がある人。被爆者健康手帳の有無や居住地、国籍、言語は問わない。市は18年から同手帳の有無を要項から外し、長崎原爆の被爆地域外で原爆に遭った被爆体験者も対象に加えた。23年からは被爆体験などの代筆や他薦を認めている。
 今年は手話や外国語での朗読のほか、幼少期に被爆した人が応募しやすいように、申込時に提出する「被爆体験」の資料を「被爆後の体験でも可」と改めた。被爆者健康管理センター(茂里町)の利用者などへの個別案内も強化する。

■「若い世代にも」
 1月23日に開かれた今年の選定審査会で、県平和運動センター被爆連の川野浩一議長(84)は「被爆者の記憶は薄れてきていて、(新たな被爆者の)掘り起こしは限界がある。若い人の意見を聞くのも良いのでは」と提案。長崎原爆被災者協議会の田中重光会長(83)も「今年も応募が減るようであれば、被爆2世や若い人を入れていかなければ」と発言。他の委員から「被爆者がいる間は生の声を発信したい」と意見が相次ぎ、若い世代の「誓い」は検討課題とされた。
 17年から応募を続け、23年の被爆者代表を務めた工藤武子さん(86)=熊本県=は「『誓い』を読んだことで依頼も増えた。(語り部活動の)引退を考えていたが、もう少し頑張って2世にしっかりバトンタッチしたい」と語る。“大役”を果たし、被爆者が語る重みをかみしめている。「実際に体験した人の言葉は強い」

「平和への誓い」の応募方法

 平和祈念式典(8月9日)とリハーサル(同7日)への出席が条件の一つ。「被爆体験」と「平和への思い」をそれぞれ400字程度にまとめ、所定の申込書などとともに、長崎市原爆被爆対策部調査課に持参か郵送、ファクスのいずれかで提出する。締め切りは3月29日。書類審査を経て、通過者はスピーチ映像の審査がある。問い合わせは同課(電095.829.1147)。

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