沈んだ船諦められず 小木の中山さん、港へ日参

津波で海中に沈んだ自分の船を見詰める中山さん=能登町小木

  ●「家2軒分」で手直しの矢先 再出漁願う

 「昨年、新しい船と同じぐらいに手直ししたばかりやったんや。家2軒新築するほどかかったのに」。4日、能登町小木港を訪れると、津波で海中に沈んだ小型イカ釣り船を見詰める中山謹一さん(69)=同町小木=の姿があった。能登半島地震から1カ月が過ぎたが、苦楽をともにした愛船を諦めきれず、港へ毎日足を運んでいるという。仮に船を新造しようにも数千万円の費用と2年以上の時間が必要で、中山さんの漁師人生は岐路に立たされている。(能登支局長・新谷彰久)

 中山さんは独立した約30年前に中古で「優久(ゆうきゅう)丸」(4.9トン)を購入し、小木周辺の沿岸でスルメイカ漁を行ってきた。昨年は記録的な不漁に終わったことから、挽回を期して最新の魚群探知機を導入。イカ釣り機は最新型に更新し、傷んでいた船体も手直しした。費用は数千万円に上った。

 中山さんは「新年から新しくなった船で本腰を入れんなんと考え、元日は一息付いとった時やったんや」と頭を抱える。

 優久丸が停泊していたのは、九十九(つくも)湾の一角。小木港の中でも、漁期を終えたり、荒天で一時帰港したりした中型イカ釣り船が係留されるなど地元で「避難港」と呼ばれる場所で、しけの日も波が穏やかな海域のはずだった。

 元日は氏子総代を務める小木の御船(みふね)神社で初詣客を迎えていた。激しい揺れが収まると、船が心配で港に向かった。道は波打つように隆起していたため、港近くの坂の上で車を降りて駆け付けると、想像しなかった光景が広がっていた。津波で岸壁は道路ごと海に崩れ落ち、数隻の船がひっくり返っていた。

 県漁協小木支所によると、地震で小木地区の小型漁船15隻中、優久丸を含む3隻が沈没、転覆した。岸壁の損傷と断水で氷が製造できないことから操業を見合わせていたが、一部の船は1月28日から漁に出ている。しかし、中山さんは丘から眺めるだけで、先行きの見通しは立っていない。

 日本海のスルメイカ漁は不振を極めている。最盛期の昨年5~7月に県沿岸で操業した小型イカ釣り船の水揚げ量は235トンで、現方式で統計を取り始めた1995(平成7)年以降で最少となった。

 それでも中山さんは再出漁を願う。中学卒業後、中型イカ釣り船の乗組員となり、200カイリ問題で北洋への出漁が難しくなった際は南オーストラリア沖にも出漁するなど「イカ一筋」で生きてきた。

 「漁を続けたいと思っとるが、自力ではどうにもならん。多額の投資をしたばかりやし、国や県に支援をお願いせんと厳しい」と漏らす。船を見ることで自らを奮い立たせるように港へ日参する中山さんが、再び海に出られる日はいつになるのか。

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