シリアのがれきに描く「希望」 現地の芸術集団の絵画紹介 被爆地へ思い込めた作品も 長崎

「希望の筆」のメンバーらとオンラインで交流するナジーブさんら=長崎市、ナガサキピースミュージアム

 トルコ・シリア大地震から6日で1年。長引く内戦による空爆や地震で甚大な被害を受けたシリア北西部で、巨大ながれきに絵を描くアーティスト集団「希望の筆」の作品を紹介する写真展が、被爆地との連帯の思いを込め、長崎市松が枝町のナガサキピースミュージアムで開かれている。
 東京在住のシリア人ジャーナリスト、ナジーブ・エルカシュさん(50)が昨年8月の広島に続き開催。広島原爆の実相を描いた漫画「はだしのゲン」や、原爆投下直後の長崎で撮られたとされる写真「焼き場に立つ少年」を題材にした作品など約20点を展示する。ナジーブさんは「暴力で全てが壊され、奪われながらも困難に負けずに向き合う姿がシリアの人たちと重なる。互いを思い、支え合うきっかけになれば」と話す。
 ナジーブさんは1997年に来日。東日本大震災の被災地を継続的に取材し、困難に耐える被災者の姿に感銘を受けた。両国の文化交流や相互理解を目的としたイベントを企画し、希望の筆の活動も支援する。
 シリアでは、2011年に始まった民主化運動をアサド政権が抑圧。内戦状態となり、政権軍が反体制派の拠点である北西部を空爆。希望の筆は「孤立感と無力感から市民を救い、世界とつながりたい」と、破壊された建物に平和や人権をテーマにした作品を描いている。そこに地震が起きた。
 「動かないといけない」。写真展開催を企画したナジーブさんの頭に浮かんだのが、主人公が原爆の苦難に立ち向かう「はだしのゲン」だった。希望の筆に相談すると、メンバーは「私たちはあきらめない」とのメッセージを込め、ゲンが建物の下敷きとなった家族を懸命に救おうとする場面を描いた。「焼き場に立つ少年」の作品には「原爆の被害に遭った長崎の人たちに寄り添いたい」との思いを込めた。
 4日は希望の筆のメンバーが暮らすイドリブ県ビンニシュとオンラインでつなぎ交流。メンバーらは町の建物の半分が空爆などで破壊され、多くの人が犠牲となった状況を説明した。「平和を大切にする日本の人たちと交流を続けたい」と語り、長崎の龍踊などを題材に描いた新作も披露。来場した約20人はアラビア語で「ありがとう。応援している」と呼びかけた。
 ナジーブさんは「シリアはオリーブ発祥の地などすてきなところがたくさんある。『かわいそう』ではなく、互いの未来のため、交流を続けられたら」と話した。写真展は25日まで(5、13、19日休館)。

「焼き場に立つ少年」を題材にした作品の写真

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