「何の疑いもなく信じてしまった」詐欺被害を免れた女性 ”元孤児でがん患者”を名乗る相手「8億円を寄付したいので…」

 被害者の善意や同情心につけ込み、金銭をだまし取る特殊詐欺の被害が止まらない。昨年11月、沖縄県浦添市に住む美容師の女性(55)が交流サイト(SNS)で海外在住のがん患者を名乗る相手から日本の慈善団体に8億円を寄付するため、女性の口座に送金したいとの話を持ちかけられた。その際、手数料の約48万円を要求されたが、用意できなかったため振り込まなかった。捜査関係者は「極めて特殊詐欺の可能性が高い」と指摘する。女性は「何の疑いもなく信じてしまった。現金があれば払っていた」と振り返った。(社会部・玉那覇長輝)

 昨年11月、女性が始めたばかりのフェイスブックに見知らぬ相手から友達申請がきた。相手は70代の日本人女性を名乗り、5歳で両親を失い、孤児として育った境遇を説明。オーストラリアで現地男性と結婚したが先立たれ、その後自身も喉頭がんを患い、現地で闘病中という。声は出すことができず、電話はできないと説得された。

 趣味や生い立ちをやりとりするうちに、女性は徐々に心を開いていった。病を患う前の着物姿、ベッドに横たわる闘病中のような写真が送られてくると「かわいそう。私が励ましてあげないと」と思うようになった。

 意気投合しやりとりが頻繁になった数日後、「亡き夫から受け継いだ8億円を日本の慈善団体に寄付するため、あなたの口座に送金したい」と持ちかけられた。

 「死ぬ前に地球上で最後の願いをかなえさせてください」「チャリティー活動にお金を使ってほしい」「30%はあなたの取り分」-。こうしたメッセージがたびたび送られてきた。

 だが「8億円を受け取る前に、取引手数料の約48万円を支払う必要がある」とのメッセージがきた。女性は銀行の担当者や弟に相談。いずれからも「詐欺ではないか」と止められたが、「詐欺なわけがない。何も分かっていない」と反発。相手を信じ切ってしまっていた。

 結局、48万円は用意できなかった。そのことを相手に告げると「助けてください。お金は戻ってくる」などと執拗(しつよう)に支払いの要求がきたことで、ようやく不審に思い始めた。もうずっと無視し続けているが、本紙の取材中にもメッセージが届いた。「そこにいる?なぜ私のメッセージを避けるのですか?」

 事の真偽は分からないが、女性は「相手への親しみや心配、責任や期待など、いろいろな感情を揺さぶられた」と吐露する。「相手の顔を直接見ていないのにお金のやりとりは危険。不審な話には注意して」と訴えた。

相手から送られてきたSNSのメッセージ。手数料の支払いを執拗に迫られている=昨年11月9日、那覇市内
特殊詐欺の手口

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