社説:京都市長に松井氏 厳しい民意受け市政刷新を

 新しい京都市長に松井孝治氏が選ばれた。28年ぶりに市役所外部からの市長が就任する。役所の前例にとらわれず、職員の意識改革を含めて大胆なかじ取りに期待したい。

 市長選は、退任する門川大作市長の4期16年の評価と新たな市政の方向性が争点となった。

 松井氏は門川氏を支えた自民、立民、公明、国民4党の推薦で当選したが、共産党の支援を受け、市政批判を展開した福山和人氏との接戦となった。薄氷の勝利は、現市政への根強い不満が表れたといえよう。

 自民の派閥裏金事件に対する厳しい批判も、逆風になったのは間違いない。松井氏は緊張感を持って市政の刷新に挑まねばならない。

 公約の実行には、人口減への適応と持続可能な財政の実現が欠かせない。国の推計で、2050年の人口は20万人以上減って124万人になる。安定した財源の確保と政策の優先順位が問われよう。

 官僚や政府要職を務めた松井氏は、新産業創出を軸にした経済活性化に重点を置く。都市計画の見直しで企業立地を支援し、人口流出が続く子育て世代の定住を図るという。人口や経済のパイを奪い合う目先の都市間競争に陥らず、長期的な展望を切り開く知恵を集めたい。

 市は3年前に行財政改革計画を策定し、保育園の補助金カットや敬老乗車証の値上げなどを進め、市民に負担を求めた。この路線を継承していくのか、早急に示すべきだろう。

 暮らしと観光の調和も都市の将来像を左右する。公約した宿泊税の引き上げや市バス・地下鉄の市民優先価格導入に加え、長期的には、他候補が主張した寺社からの資金協力も当事者を交えて議論してはどうか。後手に回り続けた対応を思い切って切り替えてもらいたい。

 選挙では教育や福祉で無償化の拡充が論点となり、松井氏は保育料や子ども医療費、学校給食費を対象に国や京都府と協力して前進させるとした。

 長引く物価高もあって、負担の増減に対する市民の関心は高い。具体化を急ぎたい。

 京都市内の地下を通す計画の北陸新幹線延伸に関して、松井氏は「延伸の必要性は理解」としつつ、慎重に判断するとした。財政負担や環境への影響はあまりに大きい。国やJR西日本、関係自治体と課題を共有し、ルート変更を検討すべきだ。

 市長選では政党の存在感が希薄だった。推薦候補の政治資金問題で、日本維新の会や教育無償化を実現する会が自主投票になり、3極対決とならなかった。残る国政の与野党は自民の裏金事件を棚上げして松井氏を推したが、有権者には理解に苦しむ構図となった。

 4割にとどまった投票率は、政党への不信感も示したと受け止めねばならない。

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