遊戯王カードゲーム25周年イベントで体験できた「デュエルリンクス」VRコンテンツ&「マスターデュエル」AIプロジェクトの担当者に聞く

会場では様々な展示や体験ができるコーナーが展開されたが、「遊戯王 デュエルリンクス Presents SOLID VISION EXPERIMENT」ではアニメ「遊戯王」シリーズさながらのVRデュエルアトラクション、「遊戯王マスターデュエル ×Presents AI SYSTEM STAGE」ではAIとの対戦の模様が楽しめた。本稿ではその裏で行われた囲み取材の模様をお届けする。

■ブラック・マジシャン・ガールが魅力的に見えれば勝ち

まずは「遊戯王 デュエルリンクス」VRのプロデューサーを務める寺嶋秋津氏を対象とする囲み取材の模様をお届けする。

筆者は既に「遊戯王オフィシャルカードゲーム(OCG)」から離れて久しいのだが、実際に体験させていただくと、幼い頃にアニメ「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ」を見ながら空想した世界が広がっていた。あのアニメで繰り広げられたデュエルの数々を、現実に楽しめる日はそう遠くないのではないかと感じたくらいなので、ぜひ注目してみてほしい。

――そもそもこのプロジェクトを進めようと考えたきっかけを教えてください。

寺嶋氏:「遊戯王」25周年記念イベントを東京ドームで開催できると決まった際に、同じIPを愛する方たちが集まるので、この機会にデジタルタイトルの将来像を見せたいと考えました。その中で「遊戯王 デュエルリンクス」としてできることを考え、キャラクターやキャラクターたちの台詞を最大限に活かせるコンテンツとしてVRに行き着きました。

――今回のイベントのために作られたコンテンツだと思いますか、この後も体験できる機会はあるのでしょうか?

寺嶋氏:現状は未定ですが、本日(※2月3日)の午前中に体験していただいた方たちの反応を見ると、非常に恍惚とした表情をされていました。そういった声を受けて東京ゲームショウなどでの出展を検討したいと思っております。

――「Meta Quest 3」が用いられていましたが、一般販売の予定は?

寺嶋氏:「遊戯王」というコンテンツはひとつのIPでこれだけたくさんの方が集まる機会がなく、このタイミングに合わせようという形で何とか制作したのが本作です。なので、今回の反応を見て検討させていただけたらと。

――体感型のアトラクションのような形でしたが、将来的にプレイヤー同士の対戦は目指しているのでしょうか?

寺嶋氏:アニメや原作で予見したかのうようにVRのようなものが登場しているので、最終的にはああいった体験ができることを目指しています。今回は体験時間が限られてしまうので、人によってはモンスターの召喚もできず終わることを想定しました。なので自由なデュエルというよりは、物語的な部分を楽しむアトラクションの形で制作しました。

――制作にあたっての苦労はありましたか?

寺嶋氏:制作チームへのオーダーは「かなりタイトになるけれどこのイベントまでに間に合わせてほしい」でした。「遊戯王 デュエルリンクス」の作業と同時進行でしたが、段々とこちらの比重が増えていきましたね。青眼の白龍のサイズ感やブラック・マジシャン・ガールのモデリングも含めて、VR寄りにどういうクオリティで制作するか相当な試行錯誤を重ねて当日を迎えています。

これは余談なのですが、今回は大きなイベントなので基本はプレイしている人間しか見られないゲーム画面をスクリーンで第三者にも見て欲しかったので、「Meta Quest 3」とPCをリンクさせて制作しました。

ただどうしても主観だけを映すと人によってはブレている映像を見ることになるので、酔ってしまうことがありました。なので主観と俯瞰の2系統の視点を出せる形で作り、「Meta Quest 3」で体験しているプレイヤーと並行して演出が見られるものを別アングルで出せるようにしています。

――3Dモデルのグラフィックのクオリティの高さに驚きました。キャラクター1体ずつあのレベルで制作するのは大変だと思うのですが、今後の展開次第ではあれがベースのクオリティになるのでしょうか?

寺嶋氏:そこは実験しながら作っていたので、基本的にモデリングは作り直しています。1万種類以上あるカードを全て3Dにできないと難しいので、今後はそこを順を追って作っていくことになると覚悟しています。クオリティに関してはあれくらいで制作しないと、VRデバイスで見た時に「あれ?」となってしまうところがありました。なので匙加減を調整しながら作業しています。

――ブラック・マジシャン・ガールの表情や仕草はかなり力が入っているように思いました。

寺嶋氏:やはりVRなので、キャラクターと自分が同じ世界に存在している感覚を味わってほしかったんです。あの世界で最初から登場するプレイヤーに一番近い存在がブラック・マジシャン・ガールなので、彼女が魅力的に見えればこのプロジェクトは勝ちだと思ってかなり力をいれました。

――最後に「TO BE CONTINUE」と表示されましたが、今後の展望はありますか?

寺嶋氏:最終的にはプレイヤー同士でデュエルができるところまで3Dで作りたいと考える中で、今回のイベントではああいった形になりました。現状は未定ですが、気持ちとしてはこの先もぜひ作りたいぞという決意の現れだと思ってください。

――ありがとうございました。

■AIならではの活用法とは?制作意図を聞いた

続いて、「遊戯王マスターデュエル」AIプロジェクトのシニアプロデューサー 片岡健一氏を対象とした囲み取材の模様をお届けする。

こちらのステージも観覧させていただいたが、来場者と対戦するAIが相手の行動をリアルタイムで分析して次の一手を予想する様は興味深い光景だった。ここではその制作意図や今後の展開を伺っている。

――ステージでAIが対戦しているところを見させていただきました。あれはどの程度までゲーム内に実装される予定なのでしょうか?

片岡氏:実はあのAIはサンプルとして「遊戯王マスターデュエル」チームが制作したものです。今回のプロジェクトの本当の目的は、誰でもああいったAIが制作できることにあります。いずれは世界中のAIプログラマーが「遊戯王マスターデュエル」のAIを制作できるようになることを想定しているので、そのサンプルだと考えてください。

――プログラマーの方が制作しているということは、単純にサンプルとなるデュエルを学習させるのではなく、プログラマーがきちんと処理をして一手ごとの意味合いを教えてあげる必要がある……?

片岡氏:プレイヤーたちのデュエルを学習させていると解釈している方もおられるのですが、実はルールも何も理解していない状態からCPUと10万回デュエルさせています。PythonというAIプログラムで「遊戯王マスターデュエル」が動くようになっていまして、そちらで学習させたAIが今回出来上がったものです。

また、今回は勝利したデュエルだけを10万回学習させています。負けを悟ってサレンダーすることを知らないので、どれだけ不利になってもあのAIはサレンダーを絶対にしません。

――2つのデッキがあったと思うのですが、それぞれ個別のAIなのでしょうか?

片岡氏:元々は同じAIで、ブラック・マジシャンデッキ、青眼の白龍デッキとで学習を変えています。

――先ほど自分でAIを作るという話がありましたが、そうなるとプログラムができる人でないと活用するのは難しいのでしょうか?

片岡氏:今のところはそうなるのかなと。今まさに配布のための規約を整備しているところです。「遊戯王マスターデュエル」の公式サイトで参加者を募集して、我々の審査を通った方にAPIが使える専用アカウントを提供します。そのアカウントを使用することで、AIのインターフェースを使えるようになります。

実際に制作するAIは、Pythonを使えばどんな形でも構いません。そして今回利用した確率表示や意思決定を表示するUIもこちらで提供する予定です。あくまで予定なので正式に募集する際にはハッキリさせてから公開します。あまり前例のない試みなので規約を作るのが難しく、やるのであれば日本だけでなくグローバルにやりたいと思っているのでその準備も進めています。

――AI開発の中で苦労したエピソードはありますか?

片岡氏:例えばプレイヤーが知らないカードがゲーム中に出てきた時に、AIに聞いたら勝率の良い対策を教えてもらえたり、初心者の方がデュエルに慣れるためにそういう機能を表示させられたら面白いのではないかと議論しましたね。

後は青眼の白龍とブラック・マジシャン、この2体を主軸としたデッキがステージで使用されていたと思うのですが、「ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン」が出た時に僕たち人間視点では対抗策がなかった場面がありまして。しかしAIは「超魔導騎士-ブラック・キャバルリー」を登場させて4000ライフにして相打ちにしてみせたんですよ。だから人間では思いつかない一手を見つけてくれる可能性を感じました。

もしかしたら他の方が作ったAIはもっと面白い判断をしてくれるかもしれませんし、我々としてもそういったAIの登場を期待しています。後はAI同士を対戦させて世界一を決めるみたいなこともやってみたいと思っています。

――AIに学習させるのが難しいのはどういった部分でしょうか?

片岡氏:1万種類以上のカードとその組み合わせがあるとなると、やはりAIのプログラムとえど理解させるのがとても難しく。そこから未来を見通したことを考えるのはかなり難しい領域なのかなと。ただ現状で不可能かというと、実は解決策がみえてきています。複雑なところを解釈できるのがAIの強みではあるので、難しくはありつつも可能性は感じています。

――今回はこのイベント用にお披露目されたものだと思いますが、今後の展望も教えてください。

片岡氏:ステージではAI自身が考える自分の勝率が画面に表示されていたと思いますが、あれを活用すれば将棋の対局で見られる優勢・劣勢ゲージが実現できるのではないかと思っています。今は搭載していないのですが、その理由は「遊戯王」がどちらが優勢か劣勢かが凄く難しいからです。ライフポイントが少ないから不利かというと、必ずしもそうではない。そういう細かい部分はデュエルを知らない人はわからないじゃないですか。

サッカーならゴールを決めたら、野球ならホームランが出たら凄いと誰でもわかりますが、カードゲームは詳しく知らない人にはわかってもらえない。けれどそこが大きく変われば、知らない人にも凄いことがおきたと伝えることができるのではないかと考えています。

後は、シルバーランク帯のデュエルをひたすら学ばせるとAIはシルバーランク帯レベルのAIになりますし、ゴーストランク帯のデュエルを学ばせるとゴールドランク帯レベルのAIになります。同じAIでも強さを変えることができるので、自分の力量にあわせたAIを用意することで新たに作ったデッキを確認する際に活用できるのかなと。

――ありがとうございました。

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