新幹線開業後も避難者受け入れ 粟津3旅館「7月中旬までは」

2次避難所の旅館で昼食を味わう被災者。粟津温泉観光協会は7月中旬まで受け入れる=2日、小松市粟津町

  ●7月中旬まで「助けたい」

 粟津温泉観光協会(小松市)に加盟する「のとや」「法師」「緑華苑」の3旅館は能登半島地震の2次避難者の受け入れ期間を、7月中旬まで延長することを決めた。北陸新幹線金沢―敦賀開業を控え、2月~3月末を期限とする受け入れ施設もある中、協会は「被災者を助けたい」と決断した。観光客を取るか被災者支援を続けるか、南加賀の宿泊業者は難しい判断を迫られている。

 9日現在、のとやに約100人、法師に約60人、緑華苑に16人の2次避難者が滞在している。協会は8日に会合を開き、3旅館の受け入れ期間を「夏休みに入る7月中旬まで」と足並みをそろえることにした。

 桂木実会長(のとや社長)は「被災者を追い出した旅館に観光客は来たいと思わないだろう。被災者と観光客は共存でき、受け入れながらでも経済は回せる」と思いを語った。

 緑華苑に避難している輪島市深見町の山下茂総区長(74)は、3月16日の新幹線開業前に退去を求められるのを心配していたとし、「出て行ってくれと言われても困る」として、仮設住宅に移るまでの準備期間が延びたことを喜んだ。

 粟津温泉のある旅館役員は「4月は利用客が年間で最も少ない時期なので、2次避難者を受け入れて安定経営を図る手はある。何より、毎朝あいさつしている2次避難者を途中で放り出すなんてできない」と語った。

  ●被災者3割月末期限 県内の施設滞在

 県によると、県内外の2次避難所には5144人が過ごす。県内の209施設に4710人がおり、このうち3割が2月末を期限とする施設に滞在している。

 厳しい経営環境にある宿泊業者からは悲鳴のような声も上がる。加賀市の旅館経営者は「1、2月の売り上げは通常の半分しかなく、(政府の観光支援の)北陸応援割の恩恵がなければ旅館にとって壊滅的な打撃になる」と説明する。

 県によると、災害救助法に基づき国が助成する宿泊料は食事付きで1人1泊1万円、食事なしで8千円が上限。これに対し、旅館経営者は「やはり1人1万円はきつい。3、4月の予約がどんどん増えているから、なおさらだ」とこぼした。

 加賀市の宮元陸市長は「県がしっかり価格補償をしてくれれば、市としても市内の宿泊施設に受け入れ延長を交渉する用意はある」と述べた。

  ●「観光客もできるだけ多く」

 加賀市山代温泉の旅館「みやびの宿加賀百万石」は約350人が滞在する最大規模の2次避難先となっている。行政から避難者1人当たり1日1万円の補助があるが、吉田久彦社長は「かつかつだ。赤字でなければいいと割り切っている」と漏らす。

 3月16日には北陸新幹線敦賀延伸というチャンスも控える。地震でも多くのキャンセルが出ただけに「できるだけ多くのお客さまを迎えたい」(吉田社長)というのが本音だ。

 吉田社長は行き先に悩む避難者のため、宿泊とは違う形の支援に着手。吉田社長は「避難者の方を無理に追い出すことはない」とした上で「観光客がたくさん来れば、旅館やホテルで避難者の方を雇用できる可能性もある」と話した。

 ただ北陸経済研究所調査研究部の藤沢和弘担当部長は避難者と観光客の受け入れ両立は簡単ではないとする。「避難者と旅行者では、旅館のオペレーションが大きく異なる」と指摘し、館内で混在すると双方が落ち着かなくなる恐れがあるとした。

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