救出劇から5年半、今も心をつかむタイの洞窟 生還を体感、外国人も楽しめる観光地に

洞窟内に整備されたウオーキングコースの階段=2023年12月、タイ・チェンライ郊外(共同)

 タイ北部チェンライ郊外のタムルアン洞窟が観光地として人気を集めている。2018年にサッカーチームの少年や男性コーチ計13人が閉じ込められる事故が発生。ダイバーらの尽力で少年たち全員が奇跡の生還を果たした救出劇は、今もタイ人の心をつかんで離さない。洞窟内にはウオーキングコースが整備されており、深部まで探索するツアーも最近始まった。(共同通信=伊藤元輝)

 「ダイバーが長距離を深く潜って少年たちを助け出した。感動して、いつかここに来てみたいと思っていた」。2023年12月上旬、東北部ウドンタニから訪れたワッサナさん(50)は興奮気味に話した。空気は湿気を含み、足元もぬかるむ洞窟内。岩場にプラスチック製の椅子と机が並び、救出チームの前線司令部が再現されていた。

 少年らは2018年6月下旬、地元の子どもの遊び場になっていた洞窟で行方不明になった。雨で内部の水位が上昇し、捜索は難航。浸水を免れた中ほどの場所に無事でいるのが見つかったが、その避難場所から洞窟入り口近くまでは浸水しており、少年たちが水に潜って戻るのは危険視された。

 最終的にダイバーが潜水技術などを教え、閉じ込められてから約2週間後に救出作戦を決行。少年1人につき2人のダイバーが付き添って潜り、次々と生還した。海外からの救援もあり、各国のメディアが報じて世界の注目が集まった。

 洞窟は国立公園内で、観光名所になったのは事故がきっかけ。救出直後から開発計画が持ち上がり、現在は階段や照明が設置された徒歩20分ほどのコースを整備。当時使われたヘルメットやゴーグルも展示されている。事故から5年半が経過した現在も、1日平均約1600人が訪れるという。救出作業中にタイ海軍の元特殊部隊員1人が命を落としており、花を手向ける人も多い。

 2023年12月中旬には、少年らが救出を待っていた場所の近くまで2~3時間かけて歩くガイド付きのツアーも始まった。これまで調査での立ち入りしか認められていなかったエリアで、安全性を確認したという。参加費はタイ国民が950バーツ(約4千円)、外国人は1500バーツと強気に設定。国立公園の担当者は「生還への道のりを体感できる」とアピールする。

 最近訪れるのは多くがタイ人で、外国人の誘致は今後の課題。インドから来たサルマンさん(31)は「当時は自国で日々ニュースを見て無事を祈っていた。外国人も楽しめるスポットだと思う」と話した。

タムルアン洞窟の入り口と観光客=2023年12月、タイ・チェンライ郊外(共同)
タイ・タムルアン洞窟、チェンライ
洞窟内に救出チームの前線司令部を再現して設置された椅子=2023年12月、タイ・チェンライ郊外(共同)
洞窟入り口に展示されたヘルメットやゴーグル=2023年12月、タイ・チェンライ郊外(共同)
洞窟入り口に展示された救出作戦の写真パネル=2023年12月、タイ・チェンライ郊外(共同)
洞窟近くで救出を記念したTシャツを売る女性=2023年12月、タイ・チェンライ郊外(共同)

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