『離婚しない男』『リコカツ』『離婚しようよ』 “離婚”を巡る男女の物語はなぜ面白い?

過激な内容とキャスティングが相まって話題騒然の『離婚しない男―サレ夫と悪嫁の騙し愛―』(テレビ朝日系/以下『離婚しない男』)。妻の不倫に気づかぬフリをしながらその証拠を日々収集し、娘の親権を獲得するために意思を持って今は“離婚しない”岡谷渉(伊藤淳史)が主人公だ。

近年、“離婚”を題材にしたドラマが増えているが、“結婚”同様、あるいはそれ以上に互いの見たくなかった部分に向き合わざるを得ないのが“離婚”ゆえ、その数だけドラマが生まれやすいのかもしれない。『離婚しない男』同様に鈴木おさむが脚本を手がけた『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)の主題歌「M」の中で、浜崎あゆみも〈理由なく始まりは訪れ 終わりはいつだって理由をもつ〉と歌っている。

『離婚しない男』では、渉とその妻・綾香(篠田麻里子)はそれぞれに離婚すると心に強く誓っているものの、互いにその本心はおくびにも出さず、自身に有利な条件で離婚を進めたいがため、水面下で動いている。そのため共通の“離婚”という目標に向かって互いに歩んでいるという姿は現時点では描かれていない。

『リコカツ』(TBS系)では新婚早々に離婚を決意した自衛官の緒原紘一(永山瑛太)と編集者の咲(北川景子)の2人の姿を追う。新婚早々、かつ互いの両親が離婚危機に瀕しているゆえ、自分たちの離婚の意志を周囲に切り出せず、2人して水面下で離婚に向けて動く“離婚活動”に着手する妙な協力体制が出来上がる。「円満な夫婦生活を送る」ことから「円満に離婚する」ことに目的は変わったものの、この共通目標に向けて歩み寄る中で2人はこれまで知らなかった互いのこだわりや魅力、自分自身の譲れない価値観をまざまざと知っていくことになる。

離婚を意識するほどに明らかになった違和感や価値観の不一致をすり合わせたり、受け入れたり受け流したりする作業はもちろん一筋縄にはいかない。自分の至らなさにも目を向けざるを得なくなるため、酷で難しい作業だと言える。しかし一方で、目的がより明確化されるため、あとはそこから逃げるか逃げないか、どこまで向き合えるかというシンプルなところに行き着く。交際0日婚の彼らにとって、相手に期待してガッカリしたり、自分に心底嫌気が差したりしながら、とことん自分と相手に向き合うこの期間こそが剥き出しの恋愛期間でもあり、名ばかりではなく本当の意味で“夫婦”になり“家族”になり“特別な存在”にための必要不可欠な共同作業の時間だったのだろう。

『離婚しようよ』(Netflix)も同じく、互いの間では離婚の意志が確認し合えている夫婦ながらも、それぞれが政治家と芸能人という“好感度”に大きく左右される職業人だからこそすぐには離婚できないという事情を抱えた2人が登場する。『リコカツ』の“2人で離婚するために協力する”というシチュエーションのみならず、ここでは夫婦や家族のサポートが試される選挙戦という一大イベントまでも加わってくる。対立候補を打ち負かすまではおしどり夫婦を続けることを選んだ三世議員・東海林大志(松坂桃李)と俳優・黒澤ゆい(仲里依紗)の期限つきの仮面夫婦期間が描かれるのだ。勝敗が明確で、勝つために四六時中一緒にいることになる選挙運動期間と、離婚を望む夫婦を掛け合わせるのが新しい。高まる一体感や団結力、高揚感は選挙運動特有のものなのか、それとも改めて互いを見直したからなのか。白熱していく選挙活動の中で2人の心の機微が随所に織り込まれる。

あれだけ憎らしく思った相手なのに揺り戻しがあったり、後悔が込み上げてきたり、正解がわからなくなったり。自分の前から相手がいなくなってしまうかもしれないと思った途端に急に愛おしさやちょっぴり打算的な名残惜しさが出てきたり。

より自分たちの本音や卑怯さが炙り出され、本能と理性の間での決断が問われる離婚。“なんとなく”という理由は存在しない離婚だからこそ、互いの意志や見ている方向がぶつかり合う。関係を清算するために一緒にいる“ちょっと前は一番近くにいたはずの他人”。結婚生活自体が味気なかったという人はいても、離婚のその瞬間まで味気ないというケースはあまり聞かないのも、なんだかこの特殊なあまり他にないシチュエーションゆえだろう。

多くの離婚ドラマが、2人で離婚の意志を確認し合った後(あるいは離婚した後)の様子を描くのに対して、『離婚しない男』は離婚に漕ぎ着けるまでの奮闘が赤裸々に描かれる。岡谷夫婦が選ぶ未来はどんなものなのだろうか。

(文=佳香(かこ))

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