「新卒。でも一軒家」窓から茶畑、部屋5つ古民家で始める公務員 向き合うまちに膨らむ期待

「『和束町民1年生』をアピールして、何でも挑戦していきたい」と意気込む岩本さん(和束町撰原)

 窓から茶畑の見える築61年の古民家で、岩本悠梨さん(22)は今年の春から京都府和束町職員として新生活を始める。空き家バンクで見つけた新居は畑付きで部屋は五つ。「新卒なのにぜいたくな一軒家暮らしです」とほほ笑み、「田舎での1人暮らしを周りから心配されるけど、楽しみしかなくって」と目を輝かせる。

 山口県出身。京都府立大文学部の4年生で歴史を専攻している。小学生の頃から歴史が好きで、時代の動きを追うことや地域に残された文化財の保全に興味がある。入学した2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で授業はオンラインだった。同級生とも会えず、慣れない土地での生活。「人に会えないことのさみしさが身に染みた」と振り返る。

 和束町史編さんの事業の一環で、景観についてゼミの仲間と調査している。初めて町を訪れたのは22年の夏だった。「曲がりくねったカーブを何度も越えて、道が開けた瞬間、視界に茶畑が広がった。その景色が今も忘れられない」

 調査では1980年代のまちの風景と現在を比較しながら考察している。茶畑や神社など約40カ所を調べてきた。「出会ったお年寄りは『ご近所さん』のように接してくれる」と町歩きを楽しんでいる。主に原山地域を担当し、茶の木の並び方や茶畑の広さなど、景観の変化から暮らしの変遷について考えている。

 大学の教授からの勧めで町職員採用試験を受けた。大学院への進学と悩んだが、「町の文化財をどのように守り、歴史を後世に伝えていくか、見つめていきたい」と決めた。面接のために京都市内から2時間、ミニバイクを走らせるほどチャレンジ精神旺盛だ。

 「『和束町民1年生』をアピールして何でもやってみたい。住んでこそ、分かることや感じることを大切にしながら、まちに向き合いたい」と期待を膨らませる。京都市左京区。

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