不思議で不可解

 米ニューヨークの大学に留学中の日本人学生が、父親に愚痴をこぼす。「日本製の高級車で通学しているのは僕だけで、周りはみんな電車です。少し恥ずかしい」。日本にいる父親からやがて返事が来た。「銀行口座にうんと振り込んだ。すぐに電車を買いなさい」▲作家の早坂隆さんが編集したジョーク集に、バブル期の日本人像を表した、この一作がある。1980年代後半から90年代前半まで、ジョークの世界の日本人は、金持ちの役柄が大半だったという▲そのころ、膨大な投機資金が株式や不動産の市場に流れ込んだ。高級車、高級ブランドに飛び付いたりと個人消費も盛んだったが、今ではそんな浮かれた空気はうかがえない▲バブル時代、株価が跳ね上がるのは好景気の証しに思えた。だからなのか、9日の日経平均株価の終値がほぼ34年ぶりに高値を更新したというニュースに、不思議で不可解な印象を抱く▲円安で輸出企業の売り上げが伸び、海外の投資家がその株を続々と買っている-など、高値にはいくつか理由があるらしいが、この国でいま、株価上昇を「恵み」として実感する人がどれほどいることか▲大方の人が肌身に感じるのは、むしろ物価高の「痛み」だろう。今の日本を表してクスリと笑えるジョークは、あいにく思い浮かばない。(徹)

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