よりによって

 「よりによって」は漢字で「選りに選って」と書く。選びに選んだのなら“相当の自信作”-となりそうなものだが、意味は正反対で巡り合わせの悪さをいう言葉だから日本語は不思議▲手元の辞書には〈もっとましな事が幾らでも有ろうに、最も望ましくない事態にぶつかった、という主体の心情を表す〉と情緒豊かな解説があって、用例にあるのは「よりによって、大みそかに泊まり客が来た」-迷惑な不意の来客に困惑する情景が浮かぶ▲辞書の入念な記述にはクスッと笑ったが、こちらは笑いごとでは済まない。盛山正仁文部科学相が2021年の衆院選で、旧統一教会の関連団体から選挙支援を受けたと報じられた問題▲「推薦確認書」に自ら署名して推薦状を受け、選挙期間中には団体関係者が“電話作戦”で同氏への投票を呼びかけたとされる。当初は「記憶にない」と否定した同氏だが「軽率だった」「うすうす思い出してきた」と説明を変遷させた▲よりによって、宗教行政を所管し解散命令請求を巡って教団側と対峙(たいじ)する役所のトップで、よりによって守勢一方の国会のさなかに問題が表面化し、よりによって自身のお膝元の元岸田派出身…と首相の胸中は察するに余りあるが▲閣僚に選んだのは他の誰でもない。苦境を嘆く資格などあるまい。(智)

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