元豪華貨客船の巡洋艦「報国丸」 沈没の謎に迫る 執筆の森永孝昭さん佐世保文学特別賞

本年度の佐世保文学特別賞を受賞した研究書を手にする森永さん=佐世保市役所

 佐世保重工業(SSK)の非常勤嘱託、森永孝昭さん(74)=長崎県佐世保市長坂町=の研究書「武装商船『報国丸』の生涯-知られざる沈没の謎」が、本年度の佐世保文学特別賞に選ばれた。昭和初期、豪華貨客船から特設巡洋艦に改造され、戦いの中で沈没した報国丸(1万トン)を克明に調べた作品で「今、謎が多い実像を世に出さなければ、真実は永遠に歴史の中に消え去ると思った」と執筆の動機を語る。
 森永さんは同造船所で長年、新造船などを動かすテストキャプテン「ドックマスター」として勤務。造船技術や船舶航海に精通する中で、進水からわずか3年4カ月で“生涯”を終えた報国丸と沈没の謎に興味を持ったという。数少ない記録や書籍を求めて防衛省の資料室や古本屋などを訪ね歩き、集めた資料をドックマスターの経験も生かしながら詳細に分析。研究書は脱稿までに10年かかった。
 森永さんによると、報国丸は1939(昭和14)年7月に進水。翌年開催予定だった東京オリンピックの選手・観客の輸送で建造された大阪商船の貨客船だった。
 しかし、41年8月に公用船指定を受けて海軍に徴用され、船体は武装改造された。同年12月の真珠湾攻撃で日米が開戦すると、南太平洋などに展開。米船籍の破壊作戦に従事した。42年11月、インド洋でオランダ船籍のタンカーと交戦した際、砲撃で積み込んだ魚雷がさく裂し炎上沈没したとされる。
 ただ、交戦したタンカーは報国丸より小さい船で、砲門も少なく実力差は歴然だった。沈没するケースは魚雷攻撃や空からの爆撃が多い中で「砲撃で沈没したとはどういうことだろうか」と森永さんは疑問を持ち、経緯を詳細に分析した。研究書はどうやって沈没したのかの謎を解き明かし、克明に記している。森永さんは特別賞に「身に余る受賞で感無量。出版に協力していただいた皆さんに感謝」と話している。
 佐世保文学賞は佐世保文化協会の小西宗十会長ら6人が同市内と近隣在住の作家の作品を審査。43回目の今回は2022年10月から23年9月に出版された20作品から選考した。
 研究書は23年4月、並木書房から出版。360ページ。インターネット通販で購入できる。

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