社説:名張再審請求棄却 なぜ門を閉ざし続けるのか

 三重県名張市で1961年、女性5人が死亡した名張毒ぶどう酒事件で、殺人罪などで死刑が確定した奥西勝元死刑囚=病死=の妹が訴えていた再審請求を最高裁が棄却した。

 裁判官5人のうち4人の多数意見で、1人は、確定判決に合理的な疑いが生じたとして、請求棄却に反対した。

 名張事件では、過去の再審請求で一度出された再審開始決定が検察の異議で取り消された経緯がある。審理を長期化させ、門を閉ざし続ける再審制度の在り方が改めて問われよう。

 奥西元死刑囚は警察に自白を強要されたとして裁判で一貫して無実を訴え、一審で無罪となったが、高裁で有罪となり、そのまま確定し、8年前に89歳で病死した。

 第10次となった再審請求の最大の争点は、別の人物が毒物をぶどう酒に混入したことを立証するため弁護団が実施したぶどう酒瓶の「封かん紙」の科学鑑定だった。

 真犯人が毒物混入後に紙を貼り直した可能性が浮上したと弁護団は主張したが、最高裁は「科学的根拠はない」とする高裁判断を支持し、請求を退けた。

 一方で、宇賀克也裁判官は科学鑑定に信用性があると評価するとともに、有力な物証が乏しく自白の信用性も疑わしいと指摘した。

 「疑わしきは被告人の利益に」の原則を踏まえれば、最高裁で初めて疑義が示された意味を受け止める必要があるのではないか。

 奥西元死刑囚の再審請求を引き継いだ妹も90歳をとうに超えている。冤罪の訴えに対し救済が不要かのように入り口を閉ざすのは理解に苦しむ。

 そもそもこの事件は、奥西元死刑囚の自白調書の信用性が争われる中、一審で無罪、第7次再審請求では2005年に名古屋高裁が再審開始決定を出している。これに検察側が不服を申し立て、名古屋高裁で取り消された。

 証拠をほぼ独占し、立証で優位に立つ検察が再審開始決定に不服を申し立てることができる現行制度には、異論も多い。

 名張事件で検察は、第7次再審請求で弁護側の開示請求に「ない」とした証拠を、第10次請求で突然開示した。検察側は「調査が不十分だった」と釈明したが、弁護側の立証活動が影響を受けたのは否めまい。

 1984年の「日野町事件」(滋賀県)では、服役中に死亡した男性の再審を大阪高裁が認めたが、検察が特別抗告した。

 66年の静岡県の一家4人殺人事件で死刑が確定した袴田巌さんの事例では二度の再審開始決定を経てようやく再審が始まった。

 検察の異議申し立てで人権救済のスタートラインにも立てない。そんな実態を変える必要があるのは明らかだ。

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