社説:麻生氏の発言 蔑視スルーは許されぬ

 本人はもちろん、発言を問題視しない政権の人権感覚の鈍さが問われている。

 自民党の麻生太郎副総裁が講演で、上川陽子外相の容姿や年齢をあげつらった発言をした。5日後に撤回のコメントだけを発表したが、不問に付すわけにいかない。

 麻生氏は先頃、福岡県での講演で上川氏について「そんなに美しい方とは言わんけれど」「俺たちから見てても、このおばさんやるね」などとやゆした。

 上川氏の外交手腕を評価する狙いがあったのだろうが、容姿にふれる必要性は全くない。ルッキズム(外見至上主義)に当たる人権侵害にほかならない。

 「俺たちから見ても」は、男性優位の立場を前提として女性議員を見下している。「おばさんやるね」は、女性の割には有能だという意味が含まれる。明らかな女性差別である。企業や組織で、幹部がこんな発言をすれば、すぐに責任を問われるだろう。

 麻生氏は自らの口で説明、謝罪すべきだ。「子どもを産まなかったほうが問題」「セクハラ罪はない」など、これまでも暴言や失言を繰り返してきた。「麻生節だから」と済ませてはならない。

 この問題について、衆院予算委員会で問われた岸田文雄首相は「発言は撤回された」と答弁し、麻生氏への批判を避けた。

 なぜ注意や指導をしないのか。政権与党の中枢に時代錯誤な考えの人物を置き続けていることが、ジェンダー問題に対する無関心さを表しているといえよう。

 上川氏の対応も理解に苦しむ。「どのような声もありがたく受け止めている」と答えるにとどまった。黙認したと誤ったメッセージを発したことにならないか。

 嫌なことを受け流す手法「スルースキル」は、男社会において「大人の対応」とされてきたが、旧弊というほかない。上川氏は外相として世界の人権問題に取り組む立場である。毅然(きぜん)とした対応を示し、女性蔑視を見過ごさないロールモデルとなってほしかった。

 世界経済フォーラムが昨年公表した「男女格差(ジェンダー・ギャップ)報告」によると、日本は146カ国中125位だった。特に政治分野は138位で、世界の潮流から大きく遅れている。

 自民は12%程度にとどまる女性議員の比率を、10年間で30%に引き上げる目標を掲げる。なのに、党内で麻生発言を批判する声が上がってこないのはどうしたことか。世界の目が見ていよう。

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