【タイ】エアージャパン、タイで就航[運輸] 新戦略で東南アジア訪日客を狙う

成田空港で披露されたエアージャパンの機体=6日(同社提供)

ANAホールディングス(HD)傘下のエアージャパンは9日、成田—タイ・バンコク線の就航式をタイの首都バンコク東郊のスワンナプーム国際空港で開催した。初便は成田発とバンコク発ともに予約が満席となった。バンコク発は、スワンナプーム空港を翌10日の午前0時15分に出発し、成田空港に午前8時10分に到着する。2月の予約率は96%、3月は72%に達し、好調な滑り出しとなった。

現在、エアージャパンが保有する機材は1機。週6往復を運航する。4月には2機目を受領し、同月30日から毎日運航に切り替える。運賃は片道1万5,500円から。バンコク線は搭乗客の7割が外国人、3割が日本人を想定。就航地の旺盛なインバウンド需要(訪日客)の取り込みを狙う。

就航式で石川徹取締役は、「3月までの予約はバンコク発が全体の9割を占め、想定以上に就航地での認知度の高さがうかがえた」と喜びの声を上げた。タイではフェイスブックを通じてプロモーションを展開し、現時点でのフォロワー数は5万7,000人に達した。石川氏は、タイでは年配の方もフェイスブック活用していると指摘したうえで、幅広い年代の方に利用してもらいたいと語った。

バンコク発の初便に搭乗するタイ人の30代女性は、NNAの取材に対し、「日本のANAブランドには信頼を寄せている。エアージャパンはその中でも価格が安くサービスも期待できるので、航空券が発売開始された直後に家族8人分を予約した」と話した。浮いたお金で娘が好きなウナギをみんなで食べに行く予定だとうれしそうに教えてくれた。

■全席エコノミーの新戦略

エアージャパンは、フルサービスキャリア(FSC)と格安航空会社(LCC)の双方の利点を融合した「ハイブリッドエアライン」と位置づける。経営企画部の江崎隆洋副部長はNNAの取材に対し、一般的にLCCは小型機を使用した低価格戦略をとっているため、1席当たりの前後幅(シートピッチ)は約71センチメートルと座席の快適さがFSCより劣り、4時間以内の短距離路線がターゲットとなると説明する。

一方、エアージャパンは中型機を使用。座席数は324席で全てエコノミークラス。シートピッチはフルサービスと同等の81センチメートル確保し、4時間以上の搭乗でも快適に過ごせるようリクライニングを深めに設計するとともに、足元のスペースも広くした。また、座席のモニターを撤廃し軽量化するなど燃費効率を向上させた。さらに、ANAHD傘下のFSCである全日本空輸(ANA)の機材を改修することで初期投資を抑制し、快適さと安さを兼ね備えた新しいコンセプトを確立した。

バンコク発の就航便の搭乗開始を前に挨拶するエアージャパンの石川取締役(写真右)=9日、タイ・サムットプラカン県(NNA撮影)

江崎氏は東南アジアの航空市場について、「日本ではLCCのシェアは1~2割程度だが、東南アジアでは5~6割にも及ぶ」と指摘。タイをはじめとする東南アジアの消費者は、早期購入により価格が安くなるシステムや、機内であらかじめダウンロードした映像コンテンツを自前のデバイスで視聴するといった、LCCの仕様に理解があると述べた。エアージャパンはこのような市場の動向に合わせて、機内でイントラネットを介して映画などの独自コンテンツを無料で提供する体制を整えた。

「エアージャパンは、ANAやピーチとは異なる戦略で東南アジアの旺盛な需要取り込みを狙う」と語る江崎氏(エアージャパン提供)

成田空港から就航便に搭乗した男性は、「座席にコンセントはなかったが、USBのタイプAとCを使えた。特にタイプCが大容量で、パソコンをつなぐことができた」とし、「座席の前後が広いのでパソコンの作業は問題なくできた」と話した。この男性は普段は機内で食事を買うことはないが、勧められて1,500円の「おにぎり弁当」を購入。水もついたこのお弁当は「かなりおいしく、普通のエコノミークラスの機内食のレベルを超えている」と感じたという。

エアージャパンの従業員数は2月時点で約800人。客室乗務員はANAの客室乗務員が兼任する。人材配置を最適化するとともに、豊富な経験を持つ乗務員がエアージャパンの規定に合わせて質の高いサービスを提供することで、競合との差別化を図る。ANAやLCCのピーチ・アビエーションとは異なる戦略で、今後成長が期待される東南アジアのボリュームゾーンである中間層に新たな選択肢として訴求する考えだ。

空港の地上サービス(グランドハンドリング)事業はバンコク・フライト・サービシズ(BFS)に委託した。ピーチ・アビエーションと日本航空傘下のLCCジップエア・トーキョーもBFSに業務委託している。江崎氏は、現地に拠点を構える必要がないため事業コストを抑制できると説明。さらに、中距離路線の運航の間に短距離路線を組み合わせることで、機材の稼働率を上げた。バンコク線の機材である米ボーイングの「B787—8」は、今月の22日に就航する成田—ソウル・仁川線と併用。主戦場となる東南アジアでの新規開拓と並行して路線の拡充を図る。

バンコク発の初便の搭乗客に記念品を手渡しするエアージャパンのスタッフ=9日、タイ・サムットプラカン県(NNA撮影)

■「機内から日本を感じられる」コンセプト

エアージャパンは、機内食で日本らしさをアピールする。地方自治体と連携し、日本の魅力を堪能できる食事や軽食を計13種類ラインアップ。地方の特産品などが過半数を占める。同社の広報担当者は、タイ人の一流シェフにテイスティングを依頼し、日本食の中でもタイ人受けが良いメニューを選定したと話す。特にタイは屋台料理でも炭火焼きが人気があるため、「ふわとろ卵の炭火焼き親子丼」は一番の売れ筋だという。また、世界に誇る日本の食品加工技術による、長期保存が可能なレトルト食品やフリーズドライ商品を採用し、フードロス減少に貢献する。

江崎氏は「ハワイアン航空で搭乗した時からハワイを感じられるように、エアージャパンでも旅の始まりから日本を体験できるようにした」と語る。機内食以外にも、機内の音楽に雅楽を採用したり、乗務員の制服にも「日本らしさ」を取り入れたデザインにしたりした。

バンコク線、ソウル線就航後、4月26日には成田—シンガポール線が就航する。ソウル線は2月の予約率は約8割に達した。今後も東南アジアを中心に中距離路線の運航を増やすため、25年度末(26年3月)までには6機体制にする計画だ。エアージャパンの峯口秀喜社長は「2025年の大阪・関西万博を見据えて、関空への就航も調整している」とコメント。30年に訪日外国人旅行者数を6,000万人に引き上げるという日本政府が掲げる目標達成に貢献していく方針を表明した。

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