人気の千手千足観音像 東京出展取りやめに 信仰かPRか、揺れる地元住民 滋賀

「千手千足観音立像」を所蔵する正妙寺(右)。左は西野薬師堂=長浜市高月町西野

 滋賀県長浜市が注力する湖北地域の観音文化PRの一環で2月に東京で行われる予定だった観音像の出陳が地元からの申し出で取りやめになった。市は「いったん了承を得ていたのに」と困惑する一方、取りやめを決めた地元住民らは信仰と地域PR協力のはざまで複雑な表情を見せる。

 出陳が中止されたのは同市高月町西野、正妙寺蔵の「千手千足観音立像」。江戸時代の作とされる木像で、高さは約42センチある。市が開設する東京長浜観音堂(東京都中央区)で2月1日から同月末までの間、市などの「観音の里・祈りとくらしの文化伝承会議」主催で展示予定だった。

 市の説明によると、昨年12月18日に地元住民でつくる奉賛会の役員の一人が会の意向として市側に出陳の取りやめを申し出た。会が出陳を内諾していたこともあり、市との協議の結果、役員はいったん話を持ち帰って他の役員らと話し合ったが、中止の意向は覆らなかったという。

 奉賛会関係者によると、同月初めに役員らがたまたま地区で集まる機会があった。同立像がたびたび地元を離れて出陳されていることなどを踏まえ「他地区の観音像に比べて出陳回数が多い」「分解して運搬することに不安がある」といった意見があり、会の総意として出陳中止を決めたという。

 湖北地域は、井上靖の小説「星と祭」で描かれるなど観音信仰が古くから根付く。市は「観音文化」の発信を地域PRの一環ととらえ2014年から市内の観音像を積極的に東京などに出陳してきた。

 千手千足観音立像は名前の通り左右に各19本の「脇足」を持つなどユニークな外観が特徴で湖北の観音像でも特に人気が高い。出陳はこの10年で今回が5度目になる予定だった。

 奉賛会のある役員は出陳中止を受け「観音様はわれわれの西野にいてもらってこそ。拝観したい人がいれば、こちらに足を運んでもらったらいいというのが地元の考えだ」と話す。

 市文化観光課は「西野の観音立像は人気があり、他と比べて出陳の声かけをさせてもらったことが多いのは事実」と認める。奉賛会が中止の理由に挙げた運搬時の不安に関しては「運搬は専門の業者に依頼するなど細心の注意を払っており、他の観音像を含めてこれまで破損はなかった」と説明する。

 市などはPRちらしをすでに作製するなど準備を進めていたが、中止を受けて代替で別の観音像の出陳を決めた。

 同課歴史まちづくり室の森岡賢哉室長は「出陳中止はこれまでにないことで残念。観音文化の伝承は地元住民の信仰があってこそなのは確かで、これを壊すことがあってはならないと考えて地元の意向を受け入れた」と話す。市などがこれまで進めてきた観音文化PRの首都圏展開も「10年でひと区切り」(森岡室長)とする方針といい、今後は拝観者に地元を訪れてもらう施策に重心を移すとしている。

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