FIFA“世界最弱”チームが目指した夢の1ゴール!『ネクスト・ゴール・ウィンズ』【おとなの映画ガイド】

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FIFAランキングで10年以上最下位、2001年のワールドカップ予選では0-31で破れ、得点差世界ワースト記録を塗り替えた、米領サモア・サッカーチームの奮闘を描くスポーツサクセスストーリー『ネクスト・ゴール・ウィンズ』が2月23日(金)、日本公開される。目指したのは予選での夢の1ゴール! けなげで、ひたむきな世界最弱チームの心意気と、彼らが起こした奇跡! この冬いちばんホットな映画です。

『ネクスト・ゴール・ウィンズ』

米領サモアは、人口5万5千の小国。南太平洋のハワイ、イースター島、ニュージーランドを結ぶ巨大な三角形「ポリネシアン・トライアングル」と呼ばれるエリアに位置する。そこにある島々は互いにかなりの距離があるにもかかわらず、芸術や伝統などを共有する広大な文化圏を形成している。

本作の監督、タイカ・ワイティティもニュージーランド出身。ヒトラーを茶化したキャラクターが登場する異色作『ジョジョ・ラビット』で米アカデミー賞脚色賞を受賞するなど、いまやビッグネームのこの監督が米領サモアチームの奮闘に注目し、映画化を決めた。

感動のドラマに映画人としての鼻がきいただけでなく、ポリネシアンとしての血が騒いだとでもいったところか。そのあたりが、この映画に独特の“おおらかさ”を吹き込み、従来のスポ根映画と一線を画している。

「究極に爽快な敗者の物語なのです。常に(映画のために)インスピレーションになるものを探しているが、この作品に関してはすべてがそこにありました」と監督はいう。

理屈なく、物語の進行に身を委ね、ゲラゲラ笑い、心躍り、心和み、観終わって幸せな気分で映画館をあとにできる。身も心も余裕がなくて、ちょっとささくれ立ち気味のおとなの気持ちに少しうるおいを与えてくれる、感動+α のある映画なのだ。

さて、物語は、米領サモアのサッカー協会がアメリカ本国のサッカー協会に協力を求め、ある監督が送り込まれてきたところから始まる。

弱いチームに強力な助っ人が竜巻のようにやってきて、空気を変えてしまい、勝利に向かって突き進むという鉄板の筋書きそのものだが、さすが、『ジョジョ・ラビット』の監督。随所にユーモラスなシーンとさまざまな人間模様を用意している。

送り込まれてきた監督は、トーマス・ロンゲン(マイケル・ファスベンダー)。選手としても指導者としても実力を兼ね備えた人物だが、個人的な悲劇をきっかけに、問題を起こしがちになり、サッカー界から追放寸前だったという、定石通りのワケあり男。

彼を迎えたチームの面々は、これまた強烈な個性。それに加えて、ポリネシア人独特の“天然おっとり”が溢れ出しているから、ひと悶着もふた悶着もある。

なかでも、この存在だけでひとつの映画を作れてしまいそうなキャラクターが、チームのストライカー、ジャイヤ(カイマナ)。サモア語では「ファファフィネ」という「第3の性別」を持ち、普段の生活は女性。FIFAワールドカップ予選で世界初のトランスジェンダーのサッカー選手なのだ。

ニッキー・サラプ(ウリ・ラトゥケフ)も魅力的。0-31で負けた記念すべきオーストラリア戦でもキーパーをつとめ、そのトラウマでいまも悩んでいた彼は、監督のロンゲンに声をかけられ、雪辱のために現役復帰してくる。

ロンゲンは、強引にチームを自分の色に染め上げるつもりだったのだが、ポリネシアの空気に染まったというか、メンバーの熱にひっぱられ、少しずつチームに溶け込んでいく。

なにせ、ほとんど全員が、仕事やバイトを持つアマチュア。にもかかわらず、朝5時からの練習、夕方5時からの練習にも音をあげず、彼らなりのやり方で努力していく姿が胸を打つのだ。

「キャスティング、衣装、プロダクションデザインなど、製作のあらゆる面に細心の注意を払い、米領サモアの人々とその環境を真正面から描いている」とプロデューサーのギャレット・バッシュは語っている。

チームのメンバーが遠征用に着る服はポリネシアン調。ニュージーランドのラグビーチーム、オールブラックスが試合前に披露し有名になったパフォーマンス「ハカ」と似たようなダンスを米領サモアチームも勝負の前に踊る。

ちなみに、実際の姿を捉えた『ネクスト・ゴール!世界最弱のサッカー代表チーム 0対31からの挑戦』(2014) というドキュメンタリーがあり、配信ですぐに観ることができる。その映画の冒頭、0-31、いわばボロ負けのゴールが延々と映し出される。よくぞここから、と感心する。このドキュメンタリーもオススメです。

文=坂口英明(ぴあ編集部)

【ぴあ水先案内から】

渡辺祥子さん(映画評論家)
「……自身も米領サモアの人々と同じポリネシア人のワイティティ監督は、穏やかな気質の島の人々を温かな幸せで包み、ささやかな勝利を喜ぶ様子を描いてイイ感じに幕を下ろす。……」

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