飼い主が認知症で入院、飼育崩壊の猫と涙の別れ…「飼い主も猫も死んじゃう!」新たな家族と踏み出した一歩

舌ペロが可愛い=上園さん提供

猫のモカちゃん(8歳・オス)は、昔の名前はリンダちゃんだった。2014年、40代の息子が、同居の母親にプレゼントした猫だった。ペルシャの一種の「チンチラゴールデン」。母と息子と3人で穏やかに暮らし続けるはずだった―。

爪研ぎを枕に=上園さん提供

認知症の高齢女性が飼う猫

リンダちゃんの運命が変わったのは2019年3月。息子が、急死してしまったのだ。母親であり、高齢の女性は一人息子さんに先立たれたショックのせいか、一気に認知症が進んでしまった。リンダちゃんは何度もマンションから脱走。しかし、女性はリンダちゃんがいないことにも気づかず、その間、リンダちゃんは別の住人の部屋で過ごし、ごはんをもらうことが多くなった。

見ているだけで癒されるという=上園さん提供

「真夜中に突然リンダちゃんの存在を思い出し、深夜3時、4時によその家のインターホンを鳴らし、『うちのリンダは来ていないませんか?』と尋ねる頻度も多くなる一方だったそうです。自制心も減退してしまったのか、思い通りにならないリンダちゃんを、叩いてしまうことも増えていたと聞いています」(保護団体代表)

マンションの住人は女性とリンダちゃんを気の毒に思い、女性の病院の付き添いのほか、リンダちゃんお世話をしてきたが、忍耐も限界を迎えつつあった。そして、女性に入院の必要性があるかもしれないという時に、マンション住民から保護団体に相談があった。

保護団体は女性と面談し、このままでは女性自身、リンダちゃん、双方にとって良くない状況であることを説明した。「今の女性にはリンダちゃんの世話は無理なこと。ご自身が、人の世話になる必要があることを説明して納得してもらいました。ところが、リンダちゃんの通院の約束の日になると、その約束も忘れてしまって、命の危険すらある炎天下にリンダちゃんを放り出し、女性は日傘もせずに外出していました」

進む認知症

「このままでは女性もリンダちゃんも死んでしまう」と危機感を持った保護団体の代表。「御霊というものがあるのならば、亡くなった息子さんがこの状況を嘆いているはずです。普段は猫のお引き取りは基本的にお断りしているのですが、この件を断れば一生後悔するような気がしました。何よりも緊急性が高いと判断しました」。女性には介護サービスを受けてもらえるように行政に介入してもらい、リンダちゃんは、第三者に立ち合いのもと書面を取り交わして預かった。

で〜んとへそ天で寝る=上園さん提供

女性は全てのやり取りを忘れ、早速「リンダがいない。うちのリンダは?」とマンションだけでなく、付近も夜遅くまで探し回った。「私はもう、リンダに2度と会えないの?」と打ちひしがれ、窓に「リンダちゃんごめんなさい。私が悪かった。帰ってきて」と貼り紙をしているという話が保護団体に伝わってきた。代表は、胸が潰れそうになったという。

「リンダちゃんも、環境激変によるストレスから1週間ほどは飲まず食わずだった。叩かれても、炎天下に放り出されても、リンダちゃんにとって、女性はたった1人の大切な家族だったのでしょう。私は、あまり感情に飲まれることはないのですが、食べる事を拒むリンダちゃんに強制給餌をしながら、思わず『リンダちゃん、引き離してごめん!絶対にあなたを幸せにするから!リンダちゃん、お願いやから、食べて生きて!』と抱き締めました」

その後、やっとゴハンを食べてくれるようになったリンダちゃん。懸命に新しい環境に馴染もうと頑張ってくれているのが伝わってきた。

先代猫と同じ猫種の猫

2020年11月、和歌山県在住の上園さんは、先代猫を亡くして悲しい気持ちを拭いきれないでいた。ふと見た保護猫サイトで、毛色は違うけれど先代猫と同じ種類の子に目が留まったという。その子がリンダちゃんだった。

譲渡会場にいたモカちゃん=上園さん提供

「書かれていた保護の経緯を拝見して先代猫と重なるところがあり、気になりました。里親募集対象地域に和歌山県は入っていなかったので、希望するつもりはなかったのですが、大阪の本町で行われる譲渡会にこの子が参加するのを知り、一目顔だけ見ようと出かけました」。初めて対面したリンダちゃんは、不安そうな顔をしていた。上園さんは、その場でリンダちゃんを迎えることにしたという。

猫と暮らして幸せな気持ちに

翌月、保護団体のスタッフがリンダちゃんを連れてきてくれた。名前は、カフェオレのような毛色なので、モカちゃんにしたという。「初日から抱っこしても怒らないし穏やかでしたが、部屋のすみっこに隠れて、ほとんど動こうとしませんでしたが、次第に慣れていきました」

初日のモカちゃん。平気そうだが、ごはんは食べなかった。=上園さん提供
雷に怯えて隙間に逃げ込む=上園さん提供

怖がりで、音には敏感。活発で、気に入らないごはんは、頑として受けつけない。「穏やかでほとんど鳴き声を出しませんが、要求はしっかりと目力でしてきます」

モカちゃんは、クローゼットや押入れをちょっと開けた時に入り込むことがあり、「あらっ?モカがいない」と慌てて探すと、クローゼットや押入れの中で寝ていることがある。上園さんは、出かける前に必ずモカちゃんの姿を確認するという。「心配も増えるけど、無邪気に走り回る姿や、グーグーと寝息をたてて寝る姿、無防備にへそ天をする姿を眺めているだけで癒され、幸せな気持ちになります」

(まいどなニュース特約・渡辺 陽)

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