最優先はセットアップの幅。同時にピットでの“時短”も意識した新型アストンマーティン・バンテージGT3の開発

 最新型のアストンマーティン・バンテージGT3では、Evoキットのおかげで「以前のクルマの欠点」を改良することに焦点を置くことができたと、耐久モータースポーツ責任者のアダム・カーターは語っている。これまでは非常に狭かったセットアップのウインドウを、広げることに注力したという。

 ハート・オブ・レーシングとマグナス・レーシングの手により1月のIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権第1戦デイトナ24時間でデビューを飾った後、アストンマーティンは2月12日にこの最新型GT3車両を正式発表した。

 カーターによれば、アストンマーティンは新型車両をジェントルマン(アマチュア)ドライバーにとってよりアクセスしやすいものにすることを目指してきたという。それは、以前のクルマには欠けていた領域であるとも述べている。

 デイトナに集まった記者団に対し、カーターはどのような改善を目指しているかを正確に説明した。

「(バンテージの)GT3車両は、GTEカーから形成されたため、ある種の挙動を引き継ぎ、アマチュアにとっては少しトリッキーになるという位置付けに陥っていた」とカーターは語った。

「プロ/アマのような組み合わせのGT3では、アマ勢は苦戦するであろう、かなり小さなセットアップ・ウインドウがそこにはあった」

「ブレーキングやコーナリングのエントリーポイントはラップタイムに大きく影響するが、前世代のGT3マシンはそういった箇所でトリッキーになる可能性があった」

「常にそう、というわけではない。ただ、しばしばアマチュアが参加することもあり、彼らは次のイベントでは(セットアップ)ウインドウの外に出てしまうこともあり、そのような境界線では非常にトリッキーなものとなっていたのだ」

「新しいバンテージGT3は、実際にセットアップウインドウが広くなり、より運転しやすくなることを重視している」

 カーターは、サスペンションと空力は改善が求められ、達成されてきたふたつの重要な領域であり、これによってドライバーはコーナーを通過する際によりバランスを取れるようになるはずだと説明している。

「フロントサスペンションのジオメトリーが変更され、リヤサスペンションのジオメトリーも変更された。また、見て分かるとおり空力も大幅に変更されている」と彼は語った。

「その変更の一環として、その種のフロントサスペンションのジオメトリーとエアロ、プラットフォームなどを組み合わせて、段階的にその種のエントリーでのトリッキーさを軽減する、といったかなり微細な変更がいくつか行われている」

「そのようなコンディションではナーバスだったため、以前はセットアップを変更することになり、そのことでコーナーの出口でも少しトリッキーになってしまっていた」

「したがって、エントリーでそれを落ち着かせようとして、バランスをとって妥協しようとすることになる。レースカーは常に部品の集合体であり、単体で提供されるものはない。常にクルマを動かし続けるので、結果的に問題を悪化させることになっていた。(新型では)実際にクルマのトラクションも良くなり、コーナー出口での安定性も向上した」

 カーターによれば、アストンマーティンは「クルマ全体の85個のサブコンポーネント」を変更し、同時にスロットルペダルのセットアップ、ブレーキ、ブレーキ冷却などの領域にも重点を置いたという。

 ここで重要なことは、このクルマは既存のデザインを進化させたもの(Evo)であり、完全に新しい車両ではないため、主要な基盤のいくつかは変更されていない、ということだ。

 これは、新型バンテージGT3が、2018年から搭載されているのと同じツインターボチャージャー付きV8エンジンを引き続き搭載していることを意味するが、カーターはまた、他の分野で「大量の潜在的なキャリーオーバー」があるとも述べている。

「ギヤボックスは同じだが、ディファレンシャルの仕様はわずかに変更されている。電気センサーやハードウェアの一部では、非常に広範囲に及んでいる」と彼は語った。

「実際の基本的な部分はEvoとして公認されているため、以前のGT3マシンを利用してアップグレードすることが可能だ」

「シャシー、エンジン、ギヤボックスなど、基礎となる部分は大部分で引き継がれている」

2024年2月12日にアストンマーティンが発表した新型バンテージGT3

■前後のカウル類をアッセンブリー交換可能な構造に

 アストンマーティンは、とくに昨年デビューしたフェラーリ296 GT3によって先駆けられた、GT3マシンのフロントおよびリヤのカウル類を一式で交換できるようなアッセンブリー化が進むトレンドに乗るための措置も講じている。

 カーターは、このクルマには「クイックチェンジタイプのフロント」があり、ダメージを受けた場合に素早いノーズチェンジが可能であると述べた。

「前のクルマよりも交換は早いと思う」と彼は語った。

「それらはすべて、たとえばロードカーよりも速いが、段違いに速く、そしてより使いやすくするために行われたことは間違いない」

「我々の車両はフロントエンジン車なので、そのような構造物は何であれ、(ミッドシップ車両の)296と同じになるわけではない」

「だが、その機構は確かに備わっており、リヤウイングの角度などを素早く変更できる優れたメカニズムも備えている」

「BoPレースでは、遂行力がすべてだ。クルマがあるのなら、そのクルマでできる限りの仕事をし、ドライバビリティをセットアップウインドウに収めるために、優れた特性を探すものだ」

「だが同時に、チームの遂行力も問題になる。それはレースタイムとして現れることになる。実際のセッションにおけるチューニングの問題だけでなくね」

2024年型(Evo)と2023年までのアストンマーティン・バンテージGT3の比較

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