「泉質は?」「効能は?」・・・肘折温泉郷の3つの温泉

これまでの寄稿で、肘折温泉の歴史、開湯伝説については書かせていただきました。今回は温泉について触れたいと思います。

1万年前に爆発した肘折火山、直径2kmの「肘折カルデラ」の底の部分に位置しています。開湯は807年(大同2年)、1218年の歴史があります。地蔵菩薩がお湯を発見し、豊後の国から来た源翁が住みついて守り続けてきた。そして、この温泉には「南無地蔵菩薩」と3回唱えてから入る習わしがあったそうです。

当地には「肘折」「黄金」「石抱」という3ヵ所の温泉があります。源泉は肘折17ヵ所、黄金3ヶ所、石炊き1ヶ所、計21か所と多くの源泉を有しています。温泉の効能と保養に適した環境から、国民保養温泉地にも指定されています。

古くから継承される「契約講」

また、肘折温泉には、古くからの「契約講」が大切に継承されています。その昔は集落の相互扶助を目的とするたくさんの〈講〉があったそうです。しかし、ひとたび契約を破ってしまうと村八分になるという、厳しい側面もありました。

雪深い肘折で湯治文化を守っていくためには、村全体でルールを決めていく必要があったのでしょう。「契約講」のいくつかは、今でも肘折での暮らしで重要な役割を担っています。そして、その代表的なものが『肘折三十六人衆』です。それは、温泉の使用権を持つ温泉組合と同じ組織です。

年に1回、12月の第二日曜日に大きな「契約講」の集まりが行われます。温泉の維持・管理に関する会議を執り行います。その後、念仏を唱えながら直径3mもある数珠を回す神事をおこない、肘折三十六人衆『男地蔵(湯の神)』の前で湯守の結束を確認しています。

独自の組織で、温泉を守る仲間たち

町中に飾られた「ひじおりの灯」

現在、温泉の維持管理を行っているのが、この『三十六人衆』と言われる肘折温泉組合の組合員たちなのです。他の温泉のほとんどが温泉の点検や清掃を外部会社へ依頼し管理しています。一方、肘折の湯は配管に湯花が詰まりやすい泉質で、2週間に一回源泉の配管の点検と掃除が欠かせません。素人ながら昔から自前で管理を行っています。

若い人ほど聞き馴染みがなくなってしまった「湯治場」という言葉。それは、日本の温泉文化を継承して行くために、現在でもこの『三十六人衆』が温泉の維持や「自然環境」「まちなみ」「歴史」「風土」「文化」を守り続けているのです。

毎年国民投票を実施している「温泉総選挙2023」では肘折温泉が「環境大臣賞」を受賞しました。この温泉を自分たちの力で守り、適正な利用の推進を行っている事、温泉地の活性化に向けて地域全体で取り組んでいることなどが評価されました。

それでは、個々の温泉について説明をしましょう。

「肘折地区」

上の湯の玄関

共同源泉と個人源泉があります。2号5号源泉は各旅館に配湯されており、各個人源泉と合わせて宿泊客に提供されています。泉質は、ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉、効能は切傷、やけど、リュウマチ、神経痛、心臓病、骨折等外傷、胃腸病、皮膚病、高血圧などに効きます。

町の中心部、共同浴場「上の湯」は、上の湯1~3号源泉を有しており、疵湯と言われています。手術後の静養に最適と言われています。温泉の権利を持っていない地元の方々が毎日通う施設です。現在は8時から17時まで一般の方々へも開放していますので、温泉巡りで是非入浴してください。

「黄金温泉」

カルデラ温泉館(外観)

今では一軒の宿泊施設と日帰り施設「カルデラ温泉館」があります。「カルデラ温泉館」は珍しい自然湧出する炭酸泉を活用している施設です。飲泉施設と露天風呂が特徴です。炭酸泉は炭酸ガスが無数の細かい泡になって皮膚に刺激を与えて毛細血管を拡張させますので、心臓に負担をかけずに血行をよくします。このため、高血圧症の人でも、自然に血圧が下がり心臓病にも効くと言われます。そして、館内には8℃の冷炭酸が湧出しており飲泉所が設けられています。

炭酸水飲泉所

炭酸泉の効果は一般的な温泉と比べると血行促進が5倍、ヨーロッパでは”心臓の湯”と呼ばれています。内臓を活発にし利尿作用、便秘、慢性消化器病、免疫力アップの効能があるようです。昔は、炭酸水を原料としてサイダーを作っていました。また、歌人の斎藤茂吉も道端に湧き出ている炭酸泉を茶碗で飲んだと言われており、施設玄関の脇に歌碑も建造されています。現在はこの炭酸水を10%配合した「肘折サイダー」と「炭酸水」の販売を行っています。

「石抱温泉」

野性味あふれる石抱温泉

肘折から高低の激しい狭い山道を2kmほどさかのぼると、こんこんと湧き出ている石抱温泉に到着します。岩石で囲まれている浴槽で湯舟は2m×1.5mの大きさ、湯の成分としては県下でも2番目にラジウムが最も多く含まれた温泉です。湯に入ると体が浮くので昔から石を抱いて入ったと言われ、石抱温泉の名もそこからきていると言われています。

昔は「石抱八人衆」という言葉が残っており、8人によって湯の権利が持たれたらしいです。しかし、湯の温度が低いのと豪雪で現在は家屋も無く浴槽だけが残っています。肘折の「ゑびす屋旅館」が管理を行っていますので、事前に連絡すれば浴槽に入ることができます。野趣あふれる温泉に挑戦してみてください。

この春からの観光キャンペーンのご案内を・・・

肘折ダムを活用したライトアップイベント

今年4月から「山形県春の観光キャンペーン」が開催されます。県内各地で特別企画のイベントが開催されます。最上地域は肘折温泉で「ひじおりの灯」の特別展示(4月下旬〜6月中旬)、「肘折ダムのライトアップ」(5月31日・6月毎週土曜)に点灯します。

春の夜風を感じながら、温泉街の夜の灯りをお楽しみください。

《参考》
■山形県春の観光キャンペーン(心ほどけるやまがた)

■大蔵村観光協会

■肘折温泉

■肘折バカンス(湯治ケーション)

(これまでの寄稿は、こちらから)

寄稿者 小林孝一(こばやし・こういち) 大蔵村 観光プロデューサー

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