田中麗奈に再ブレイクの予感 『ブギウギ』『いちばんすきな花』で想像させる人生の陰

「私はラクチョウのおミネってもんだ」

早いもので残りの放送があと2カ月弱となった『ブギウギ』(NHK総合)。ついにスズ子(趣里)が“ブギの女王”となり、物語も終盤に差しかかっているが、まだまだ個性豊かなキャラクターが登場する。その一人が“ラクチョウのおミネ”こと、おミネ(田中麗奈)。彼女は有楽町界隈を取り仕切る街娼たちのリーダー的存在で、スズ子が取材を受けた芸能雑誌の記事が気に入らないと、楽屋に怒鳴り込んでくる。演じるのは、ここ数年で再ブレイクの兆しを見せている田中麗奈だ。

田中といえば、“なっちゃん”というイメージを持っている人が多いのではないだろうか。田中は、1998年にサントリーの果汁入り飲料「なっちゃん」のCMで初代“なっちゃん”としてブランドキャラクターに起用されたことで一気にブレイク。同年に公開された映画初主演作『がんばっていきまっしょい』では、清涼飲料水にも負けない瑞々しさでボートに青春をかける女子高生を演じ、その年の新人賞を総なめにした。

あれから25年が経ち、40代となった田中は当時とはまた違った印象を与える役で作品にインパクトを残している。2019年に第一子を出産後、一時期は仕事をセーブしていた印象だが、2023年、ドラマ『いちばんすきな花』(フジテレビ系)での好演が話題を呼んだ。多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠がクアトロ主演を務め、それぞれの生きづらさを抱える男女4人の友愛を描いた同作。田中が演じた志木美鳥は4人全員が過去に何らかの接点を持った共通の知り合いで、いわば物語のキーパーソンだった。

どの時代、どの場所でも“みんな”から嫌われていたが、4人それぞれからは幸せを願われていた美鳥。全員が異なる印象を抱きながらも、周囲と馴染めない彼らが不思議と心を許してしまう“みんなのみどりちゃん”は、“なっちゃん”だった頃の親しみやすさと、大人になってからのどこかミステリアスな雰囲気を両方持った田中だからこそ演じられた役であるように思う。大きな事件は何も起こらず、淡々と進んでいく会話劇の中で活かされる繊細な感情表現も見事だった。

『ブギウギ』で演じるおミネはそれとは対照的な役柄で、見ず知らずの、かつ「東京ブギウギ」で一躍スターとなったスズ子に直接文句を言いにくる豪快な人物だ。その際も律儀に自らの通り名を明かすなど、きっぷのいい江戸っ子という第一印象を抱いた。だが、彼女にも夜の街に立たなければならなかった事情があるはずで、華やかさの裏にどこか謎めいた雰囲気を持つ。

スズ子は取材の中で街娼の生き方にも理解を示したが、それが却って苦労してきたおミネには舐められているように感じたのかもしれない。しかし、スズ子もまた戦時下を共に生き抜いた愛助(水上恒司)を亡くし、まだ乳飲み子である愛子を抱えて舞台に立ち続ける苦労人だ。街娼たちがついていくようなおミネなら、スズ子が事情を話せば分かってくれそうな気もする。

犬の殺処分問題を題材にした『犬部!』(2021年)や、関東大震災後の混乱期に発生した虐殺事件を描く『福田村事件』(2023年)など、観る人にさまざまな問いを投げかける作品への出演が相次ぐ田中。今回も彼女が体現するおミネの生き方は、時代背景は異なれど、女性の貧困や路上裏での売春が社会問題となっている現代に一石を投じるのではないだろうか。

(文=苫とり子)

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