なぜ?世界が注目する“ジェノサイド条約”に日本が批准しない理由

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG(モニフラ)」(毎週月~金曜6:59~)。「New global」のコーナーでは、日本が批准していない「ジェノサイド条約」について着目しました。

◆ジェノサイド条約とは?

イスラエル軍によるガザ地区への大規模攻撃が「ジェノサイド条約違反」だとし、南アフリカがイスラエルに軍事作戦停止などを求めた訴訟の審理が1月11日、ICJ(国際司法裁判所)で始まりました。一方でこの前提となる「ジェノサイド条約」に日本は批准していません。一体なぜなのでしょうか?

「ジェノサイド条約」とは、1948年に国連総会で採択された条約で、人種・民族・宗教などが異なる集団を破壊する目的の殺害・迫害を国際法上の犯罪をジェノサイドと定義し、防止・処罰を求めています。これまでアメリカ、イタリア、ロシア、中国、北朝鮮など153ヵ国が締約していますが、日本は批准していません。

過去、ジェノサイドと認定された事例はいくつかあり、例えば、1970年代後半のカンボジア、旧ポル・ポト政権による国民の大虐殺で、これは200万人以上が死亡。また、1994年のルワンダ大虐殺では少数派ツチ人など約80万人が殺害されました。さらに1995年のスレブレニツァでは、ユーゴスラビアの内戦でイスラム系住民らが約7日間で約8,000人以上亡くなっています。

◆ジェノサイド条約、日本はなぜ批准しない?

なぜ、日本は"ジェノサイド条約”に批准していないのか。これは2021年、ウイグル問題に付随し国会でも議論されました。衆院外務委員会で当時・山尾志桜里(現・菅野志桜里氏)氏は、「ジェノサイド条約が求めているものと日本の国内法にギャップがある。この条約を批准する必要があるという政府の意思があれば新法を作ってでも入れるべき」と主張。これに対し、茂木外務相(当時)は「日本の国内法をどうしていくかの問題は外務省だけでなく法務省も絡む。立法措置を取るかは非常に大きな判断」としています。

ここで問題となっているのは、国際条約と日本の刑法の間にある大きな齟齬(そご)。「ジェノサイド条約」の処罰行為は「集団殺害の共謀」か「集団殺害の直接かつ公然の扇動」である一方、日本の刑法では"扇動”は対象外。あくまで実行した場合のみ、刑法の対象となっています。

Fridays For Future Tokyoオーガナイザーの黒部睦さんは、「齟齬があるからというのは逃げているように感じる」と日本の対応に異論を唱え、「関与しないという形で中立的な立場をとっているように見せている気がしてしまう。大きな課題があり、そこを考えていかないといけないと思っているなら、今こそ考えるべきときだと思う」と指摘します。

オウルズコンサルティングの若林理紗さんは「なぜ日本の刑法だと"扇動”が対象外になるのか?」と疑問を呈します。

脳科学者の茂木健一郎さんは、「(日本で)共謀罪が成立したときも同じような議論があったが、刑法はなるべく抑制的であるべきだという思想があるなかで、国内法との整合性をつけるのはおそらく法務省としてかなり面倒なんだろうと思う」と推察。

堀は"扇動”はあくまで発言や行動を伴うものであり、そうなると"表現”にも関与するとあって、表現の自由をどこまで担保するか頭を悩ませつつ、「ただ、明らかに国際法上では扇動こそがジェノサイドを生むとし、それが虐殺につながると考えると、国内の刑法のあり方そのものも含めて今のままでいいのかということも、もう少し議論が必要」と言います。

すると茂木さんは「ドイツの大戦中の行為を当時はなぜ止められなかったのかと思うが、今、まさにガザで同じようなことが起きていて、我々も止められていない。後からいろいろ言うのは簡単だが、同時代に生きるなか、そういうことがあったときにどう止めるのか、それはとても難しい」と苦悶。それに対し堀が「水を差す環境が大事」と語ると茂木さんも「世論を盛り上げるのが大事」と共感していました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 6:59~8:30 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組X(旧Twitter):@morning_flag
番組Instagram:@morning_flag

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