無実の人いつまで苦しめる…再審法改正へ高まる機運 国会宛て署名5万人超、地方200議会が意見書 日弁連も本腰「目指すじゃない。実現の年だ」

「再審法改正」に向けた活動に関する報告があった集会=1月30日、東京・永田町

 裁判をやり直す再審の制度改正に向けた動きが広がっている。手続きに関する規定が乏しく、冤罪(えんざい)被害の救済が遅れる事例が後を絶たないためだ。市民団体を中心に、国会への署名提出や地方議会での意見書採択の運動を展開。「大崎事件」など12の再審事件を支援する日本弁護士連合会(日弁連)も改正案を取りまとめるなど改革実現に本腰を入れる。

 「今年は再審法改正を目指す年じゃない。実現する年だ」。1月30日、東京・永田町の衆院議員会館。日弁連の再審法改正実現本部で本部長代行を務める鴨志田祐美弁護士(京都弁護士会)は集会の参加者約30人を前に固い決意を示した。

 1979年に鹿児島県大崎町で男性の変死体が見つかった大崎事件は現在、第4次再審請求が最高裁で争われている。弁護団事務局長でもある鴨志田弁護士は「再審が始まらないのは、検察官の抗告が許されているからだ」と語気を強めた。

 この日、全国の冤罪被害者や支援者らでつくる「再審法改正をめざす市民の会」は、国会宛ての署名が2022年6月提出分を含めて累計5万8907人に上ったと報告。会期中に10万人を達成しようと、さらなる協力を呼びかけた。

■ルール不明確

 500を超す刑事訴訟法の条文で再審に関するものは19しかない。ルールが明確でなく、裁判所によって審理が極端に異なる「再審格差」が指摘されてきた。静岡地裁で再審公判が開かれている「袴田事件」は最初の請求から43年がたつ。

 日弁連は19年、冤罪被害者の早期救済に向け、人権擁護大会で「再審法の速やかな改正を求める決議」を採択した。20年3月に特別部会を設置。22年6月には会長がトップの実現本部を立ち上げ、組織を挙げて取り組む体制を整えた。

 実現本部の始動から8カ月後の23年2月、刑訴法の改正案を盛り込んだ意見書を公表した。再審における証拠開示制度の整備、再審開始決定に対する検察官の不服申し立ての禁止などが主な内容。改正案が取りまとめられたのは1991年以来、32年ぶりのことだ。

■絵に描いた餅

 元裁判官で法政大学法科大学院の水野智幸教授(刑事法)は「過去の再審無罪事件が示すように一定の割合で冤罪は存在し、無罪方向の証拠が捜査機関に眠っている可能性がある」と強調。「証拠開示のルールがなければ再審制度は絵に描いた餅のままだ」と話す。

 地方議会では再審法改正を求める意見書の採択が広がり、市民団体の集計で209議会(1月末時点)に上る。ただ、法務省は法的安定性などを理由に改革には消極的で、「現時点で直ちに手当てを必要とする不備があるとは認識していない」との見解を示す。

 鴨志田弁護士は「法案を通すには政権与党の賛同が必要で、超党派による議員連盟も模索しながら活動している。正念場の1年だ」と話す。日弁連や市民団体は、今夏に見込まれる袴田事件の再審判決に合わせ、世論をさらに高めたい考えだ。

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