平野悠・著『1976年の新宿ロフト』- 日本の文化的優位性が失われつつある今こそ、50年前に新たな音楽文化を追い求めたライブハウス「ロフト」創業者の生き方に触れてみてはどうだろうか

時は1970年代初頭。まだ日本の音楽は歌謡曲が主流の時代に珍しくロックが聴ける店としてスタートした一つの音楽喫茶は、若者たちの強い支持に支えられて次々とライブハウスを展開していきました。今でこそロックは日本の音楽シーンの中心を担う存在ですが、当時ロックという音楽はまだ日本では全く浸透してなく、ロックを聴ける場所、ましてやロックを演奏できる場所は殆どありませんでした。そんな中でいち早くロックのレコードを流し、ロックが演奏できる場所を提供したのがライブハウス「ロフト」でした。 本書はそのロフト創業者である著者の平野悠が自身の強い好奇心と若者の熱い支持によって、まだ日本の音楽シーンにロックというものが殆どなかった時代に、新しい音楽を演奏しようとする者たちに、手探りで演奏する場所を提供し続けた奮闘記と読むことができます。 本書を読み私自身が改めて思うことは、70年代初頭に若者が中心となり手探りのまま世界の新しい文化を国内に取り込む環境を作り出したことがいかに恵まれていたかということでした。当時、同じアジア圏の国々、たとえば中国では文化革命の嵐が吹き荒れ、朝鮮半島は二つの軍事政権が睨み合い、そして戦争をしている国までありました。そんな国際情勢の中で日本は比較的安定した経済成長を続けたまま文化的な豊かさを手に入れることができました。日本がアジアという地域において最も現代的な文化的財産を持っていることは間違いないと思います。 しかし、そんな時代から50年以上の年月が経ち、日々文化的にも進歩を続ける中でアジアの周辺諸国も安定した経済成長を遂げ、韓国のK-POPを始めとしてアジア周辺諸国からも優れた創造性を持つ者が出てきました。そして日本が持っていた文化的な優位性は無くなりつつあると思います。 そんな時代だからこそもう一度50年前に立ち返り、右も左もわからないままに新しい文化を追い求めた一人の男の人生に触れてみるのはいかがでしょうか。この本では熱い心を持った若者が自分たちの価値観を追い求めて街から文化が生まれていく過程を一つの視点から見ることができます。(阿佐ヶ谷ロフトA:永井淳也)

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