欧州の軍備強化は10年かかる=独最大の防衛企業トップ

「ヨーロッパが完全に自衛できるようになるまで10年はかかるだろう」。ドイツ最大の防衛企業ラインメタルのトップが12日、そうした見方をBBCに示した。

ラインメタルのアルミン・パッペルガー最高経営責任者(CEO)氏は、弾薬の在庫は現在「空っぽ」だと述べた。

この発言があったのは、ニーダーザクセン州に新設する大規模武器製造工場の定礎式に、オラフ・ショルツ首相を迎えた時だった。

式典には、ボリス・ピストリウス国防相とデンマークのメッテ・フレデリクセン首相も出席した。

この発言の前日には、米大統領選の共和党候補となることが有力視されているドナルド・トランプ前大統領の発言が、欧州で新たな警戒心を呼び起こしたばかり。

トランプ氏は、義務付けられた防衛費を支出しない北大西洋条約機構(NATO)加盟国を守ることはしないし、侵略者には「やりたい放題する」よう「奨励」すらすると、かつて世界のリーダーに伝えたと発言した。

ラインメタルは、新たな工場に3億ドル(約448億円)以上を投資するという。最終的には年間20万発の砲弾を生産する予定だとしている。

パッペルガーCEOは、「NATOと戦おうとする侵略者」に備えるには「長い時間」が必要だと述べた。

「私たちは3、4年は大丈夫だ。しかし本当に備えるには10年必要だ」

パッペルガー氏はまた、「ヨーロッパで150万発(の弾薬)を生産しなければならない」と主張。欧州の弾薬の大部分はウクライナに送られており、欧州の在庫はほとんどないとした。

「戦争がある限り、私たちウクライナを助けなければならない。だがその後、(弾薬の在庫を)本当に満たすには、最低で5年、そして10年は必要だ」

ショルツ首相は、トランプ氏の発言を懸念しているかは明確にしなかった。そして、NATOはアメリカ、カナダ、欧州諸国にとって「非常に重要」だと「確信している」と述べた。

「私たちはそれから離れないし、米大統領も離れないし、米国民も同じだと信じている」

ショルツ氏はさらに、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「帝国的野心」をむき出しにしたと主張。「平和を望むなら、侵略者になりうる者たちをうまく抑止しなくてはならない」と付け加えた。

デンマークのフレデリクセン首相は、アメリカが支援を引き上げた場合、欧州は単独で対処する必要があると思うかとBBCに問われると、欧州は「どうであろうと」準備を整えなくてはならないと答えた。そして、「ロシアがどんどん攻撃性を増している」のは、欧州が規模の拡大を必要としている証拠だと付け加えた。

「私たちはスピードを上げなくてはならない。私が今日ここにいるのはそのためだ」

プーチン氏によるウクライナ本格侵攻を受け、ショルツ氏がツァイテンヴェンデ(ドイツの外交・防衛政策の転換点)を宣言して2年近くがたつ。

これにより、ロシアに「貿易を通した変化」をもたらす政策は失敗だったとの見方が広まった。

同盟関係にある国々は、欧州最大の経済大国ドイツが安全保障で積極的な役割を担い、従来の慎重姿勢を捨てるよう期待してきた。

しかしドイツは昨年、GDP比2%を防衛費に支出するという目標を達成できないと予想されたNATO加盟の過半数の国の一つだった。

ドイツは今年、2%の目標を達成する見通しだが、単発の基金を利用してのことだ。

ドイツ国際安全保障問題研究所のクラウディア・マヨール氏によると、ロシアがウクライナに本格侵攻して以降、欧州は防衛関連の投資を増やしている。

「しかし正直なところ、現時点では従来型の紛争において、アメリカの支援なしで欧州は自衛はできないと分かっている」

マヨール氏は、ツァイテンヴェンデが宣言されて以降、「非常に多くのことがなされた」と言う。それでも、世界の安全保障上のさまざまな課題に立ち向かうには不十分だと話す。

パッペルガー氏は、ツァイテンヴェンデが「単なる言葉ではない」ことに同意。政府と防衛請負業者の信頼関係は改善されたと考えている。

ラインメタルの株価は、ロシアによるウクライナ本格侵攻以降、着実に上昇している。

この種の議論にはドイツの過去が重くのしかかる。20世紀の再軍備が破滅的な紛争を引き起こしたからだ。

今年の米大統領選がどうなるかは誰にも分からない。ただ、トランプ氏の最新の発言は欧州全体への警鐘と受け止められている。それは決して初めてのこととはされていない。

(英語記事 Europe needs a decade to build up arms stocks, says defence firm boss

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