江戸時代から現代へ…ダイナミックな仏像、約160体が大阪に

ナタやノミで彫り出した時の勢いそのままに、微笑みをたたえる像もあれば、荒々しい憤怒の相を持つ神仏の像も・・・。江戸時代の修行僧・円空が彫った「円空仏」約160体が集結する『円空 ―旅して、彫って、祈って―』展が、「あべのハルカス美術館」(大阪市阿倍野区)で開催中だ。

その素朴でダイナミックな佇まいと独自のスタイルで熱いファンが多い「円空仏」。両面宿儺坐像 1685年(貞享2年)頃 岐阜県・千光寺

修験者として東海3県(岐阜県・愛知県・三重県)を中心に、北海道から近畿地方まで行脚し、各地で天災や病などに苦しむ庶民のために神仏を彫り続けた円空(1632年〜1695年)。

同展は、荒々しいノミ跡が無い初期作品から円熟期、最晩年頃までの「円空仏」を総覧できるだけでなく、ほとんど記録が残っていない謎に満ちた円空の生涯や人柄に貴重な資料から触れられる、またと無い機会。全5章の構成となっており、旅する円空の人生をまるで追体験できるような内容になっている。

■ 「円空仏の寺」として知られる岐阜県・千光寺の像も

なかでも注目の第4章「祈りの森」では、「円空仏の寺」として知られる岐阜県・千光寺に伝わる像を拝観できる。約5000体現存する「円空仏」のうち、64体を所蔵する同寺は、週刊少年ジャンプの『呪術廻戦』で知名度が上がった「両面宿儺(りょうめんすくな)」開祖の寺としてご存じの方も多いだろう。

『日本書紀』では、ひとつの胴体に2つの顔がある天皇の逆賊として記され、一方で地元の飛騨や美濃では、龍や悪鬼を倒した英雄として伝承が残る「両面宿儺」。千光寺には4体の像が残るが、そのうち円空作の「両面宿儺像」は、注目作品のひとつだ。

通常の「宿儺像」は、2人の人物が背中合わせに合体した姿をした神像だが、円空は、斧を持つ武人の左肩にもうひとつの顔がこちらを向いて乗っており、印を結んだ手が表わされた異なる姿の像を彫り上げた。「円空と意気投合した当時の住職・舜乗(しゅんじょう)から飛騨の守り神であると聞いたのだと思います。守護する武人の顔と仏の顔を持つ、神仏習合を象徴した像です」と、千光寺の大下大圓長老は説明する。

村人が病気になったときは、借り出して平癒を祈り、治ると返した伝承が残る、やさしい微笑みをたたえた「観音三十三応現身立像」1685年(貞享2年)頃 岐阜県・千光寺

奈良・東大寺の大仏造立に尽力し、重税や労役、疫病に苦しむ庶民に手を差し伸べた奈良時代の名僧・行基をリスペクトしていたという円空。「円空仏」には観音像が多いのだが、千光寺に31体現存する同形の菩薩像「観音三十三応現身立像」には、近隣の村人が病気になった際、借り出して平癒を祈ったと伝わる「円空さんにすがる信仰」が残っている。

千光寺の大下真海住職は、「行基とは異なるアプローチで民衆に分け入り、その場所や庶民一人一人から求められた仏をつくりました。仏の無いところに自ら彫って仏をもたらしたのです」と話す。

「円空仏」には、「善女龍王像」や「八大龍王像」など降雨祈願の龍王像も多い。民衆が恵みの雨を求めたのだろう。しばしば「観音菩薩」「善女龍王」「善財童子」の三尊形式の像でも制作している。同展の最後には、最晩年頃の作である岐阜県・高賀神社の三尊(十一面観音菩薩及び両脇侍立像)が微笑みをたたえ、風にゆらぐような伸びやかな姿で観覧者を見送ってくれる。

あべのハルカス美術館開館10周年記念『円空 ―旅して、彫って、祈って―』は、4月7日までの開催。料金は一般1800円ほか、詳しくは公式サイトにて。

取材・文・写真/いずみゆか

あべのハルカス美術館開館10周年記念『円空 ―旅して、彫って、祈って―』

期間:2024年2月2日(金)〜2024年4月7日(日)
休館日:3月4日
時間:火~金10:00~20:00、月土日祝10:00~18:00(最終入場は閉館30分前まで)
料金:一般1800円、大高生1400円。中小生500円

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