ジュネーブモーターショー、今年で終わり?

3度の中止とカタールでの開催を経て、ジュネーブ国際モーターショーが今年、その名を冠した都市に戻ってくる。しかし関心は低い。自動車専門家のシュテファン・ブラッツェル氏が、ショーを活性化させる試みと新たな自動車の世界秩序について語る。 ジュネーブ国際モーターショーは1947年、第二次世界大戦後に復活した世界初の自動車産業イベントとして開催された。一方、パンデミックでの中止を経て旧拠点で復活を遂げたモーターショーとしては最も後塵を拝する。 2020~2023年のジュネーブ国際モーターショーはパンデミックで中止となり、昨年はカタールで開催された。カタールではF1グランプリが予定されていたため、例年の3月ではなく10月開催となったが、イベントには18万人が来場した。今年はジュネーブで2月27日から3月3日まで開かれ、20万人の来場者を見込む。 ショーの120年近い歴史を鑑みれば、控えめな数字だ。2005年には、約75万人がショーに足を運んだ。 ショーの人気に陰りが生じ、一部のメーカーの不在が目立った2019年でさえ、来場者は60万人を超えていた。 2024年イベントでは、ほぼ全ての老舗メーカーが出展をキャンセルした。これがイベントの将来にどう左右するか。そして、スイスの多くのサプライヤーも依存する、この揺れ動く業界はどこへ向かうのか? ベルギッシュ・グラートバッハにある研究所「自動車管理センター(CAM)」の創設者兼所長で、欧州を代表する自動車専門家のシュテファン・ブラッツェル氏に話を聞いた。 swissinfo.ch:自動車見本市は数年前の時点で既に死んだと言われました。しかし今、多くの見本市が息を吹き返しています。見本市に将来はあるのでしょうか。それとも、時代遅れと化した者の最後の悪あがきなのでしょうか? ステファン・ブラッツェル:重要な主要見本市は、もう残り少ないと思います。最後の砦が上海と北京ですね。2年に1度ドイツで開催されるIAAもその中に入るでしょう。 しかし、状況は難しくなっていくでしょう。モーターショーの形式が時代に合わなくなってきているからです。 今日、メーカーは自動車の宣伝に他の媒体を探しています。街の中心部にポップアップストアを開いたり、ソーシャルメディアで宣伝したりして、一般消費者にリーチする機会を増やしています。 見本市の状況も変化しています。エレクトロニクス見本市は重要です。自動車がデジタル製品にシフトしたからです。 swissinfo.ch:かつてジュネーブ国際モーターショーは、自動車業界にとっては出展が必須のイベントでした。今では、ドイツの自動車メーカーを含め、ほとんど全ての既存メーカーが出展をキャンセルしています。これをどう解釈すべきですか? ブラッツェル:コストの高さと利益が釣り合わなくなっています。メーカーはお金の使い道を慎重に考えます。私としては、ジュネーブの見本市は非常にコンパクトなので、参加するのが楽しかったです。しかし、今年の出展者数の少なさを見ると、もう終わりなのかもしれませんね。違う結果になる可能性もありますが、今のところどうなるかはわかりません。 swissinfo.ch:昨年はカタールと協力し、同国でのF1グランプリ開催前に、カタールの資金提供で壮大なイベントを開催しました。今年は、未来志向の業界会議という形式でジュネーブ開催となります。目に見えるコンセプトはあるのでしょうか? ブラッツェル:戦略的なものは見当たりません。昨年のカタールでのショーは、湾岸諸国から資金があったからできたことです。見本市と会議を組み合わせることも意味があるかもしれません。ですが、それが実行可能かどうかは私にはわかりません。特に十分な集客が見込めるかどうか、は。 現代では体験型のイベントが重視され、屋外で行われる傾向にありますが、それは時期を考えると理想的ではない。ミュンヘンのIAAは街の中心部で展示会を開催しましたが、この点では正しい方向へ一歩を踏み出しました。 swissinfo.ch:かの良き時代には、ジュネーブは近隣諸国や日本、米国からもメーカーが集まる、業界の中立拠点のような存在でした。今の状況は、国内に自動車ブランドを持たないスイスへのしっぺ返しなのでしょうか。 ブラッツェル:もしそうであるなら、それはドイツにとっては利点です。自動車産業協会が自国の会員を見本市に参加させることができれば、多くが達成されたと言えます。ドイツは欧州最大の自動車市場でもあります。 スイスは、モーターショーがまだその役割を果たしていた時代には興味深い機能がありました。しかし、その時代は終わり、戻ってくることはないでしょう。 swissinfo.ch:モーターショーが予想通りぱっとしないものになるとしましょう。イベントブランドとしてカタールに売却されることは、現実的に考えられるでしょうか? ブラッツェル:財政的な影響はわかりません。ジュネーブへの関心が低いのであれば、売却は想像できますが、問題は買い手がいるかどうかです。 swissinfo.ch:業界のマーケティングは変化し、展示会場はTikTokやインスタグラムに魅力的な素材を提供できませんでした。結局のところ、インターネットがモーターショーにとって最大の敵なのでしょうか? ブラッツェル:デジタル化というテーマは、トランスフォーメーションにおいて、またメーカーが画像やインタラクティブな要素を用いて購買者と出会う方法において、中心的な役割を果たしています。基本的な疑問とは、自動車はどう変わるのか?新しいモデルとは何か?ということです。 かつては、自動車はステータスやデザインと密接に結びついていましたが、現在は急速に変化しています。マーケティングはこれに対応しなければなりません。一部の顧客にとっては、(徒歩などの)基本的なモビリティが重要なのです。 そして、より高いセグメントがあります。ゴルフやテニスのトーナメントやレガッタのスポンサーになるのは、ブランド力を高めるためです。多くのブランドは、大きな見本市の中で本当に身を持ち崩してしまった。そのため、数年前から独自のプラットフォームを探し始めたブランドもあります。 swissinfo.ch:中国では、伝統的な見本市にはまだ未来があるようです。 ブラッツェル:発展の段階は国によって異なります。中国では、顧客と話すことと言えばまだ初期のモータリゼーションについてです。デジタル化は非常に進んでいます。ですが上海や北京のモーターショーはまだ数年は続くでしょう。 欧州では、IAAという1つの主要見本市に全てが集中することになるでしょう。パリはもはやその役割を果たしません。他の全ての見本市は、国際的な役割を果たしていません。純粋に地域的な見本市です。 swissinfo.ch:デジタル化と電気革命に伴う自動車業界の激変は、そのヒエラルキーも揺るがしています。私たちは、中国が主導権を握る新たな自動車世界秩序に直面しているのでしょうか? ブラッツェル:その通りです。私は講演時は常に、いま出現しつつある新しい世界を思い描きます。電気とデジタルの時代に役割を果たす新たなプレーヤーたちをね。 テスラはその地位を確立しました。中国では、BYDとMGが生き残るでしょう。Nvidia、Alphabet、Tencentといったビッグデータ・プレーヤーも重要で、ソニー、ホンダ、ファーウェイも参入しています。ボッシュのような既存のサプライヤーは、自らの立ち位置を再考する必要があります。 swissinfo.ch:ドイツメーカーは、この転換を受け入れるのに遅れを取りましたが、サプライチェーンの混乱や利益率の低さといった構造的な問題に苦しんでいます。特にフォルクスワーゲン(VW)は流れを変えることがまだできるのでしょうか? ブラッツェル:ドイツメーカーの中で、VWは変革を推進するのが最も難しいと感じています。VWではコストがより重要な要素になっています。中国では、VWはまさに大きな価格競争が起こっている自動車セグメントに進出しています。 中国製品は同等と見なされ、コネクティビティの面で優れている場合もあるほか、安価です。 しかし、私はVWがこの変革で生き残る可能性は十分にあると信じています。新たなパートナーシップが築かれています。コストが中国製品に匹敵するレベルまで下がるまでには、あと2、3年はかかるでしょう。 注記:スイスの小規模メーカー、マイクロリーノはジュネーブに拠点を持つ。 編集:Samuel Jaberg、独語からの翻訳:宇田薫、校正:大野瑠衣子

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